「…それはどうも」
返ってきた679さんの声は普段通り、いや、普段より少しばかりトーンが低い気がした。
元々顔の表情は無いからわからないけど、あまり喜ばしくはなさそう
せっかくのお誕生日なのに
「?、あんまりうれしくないですか?」
「そうですね、特には…」
「…」
低いトーンの声
この世に生まれることができて、いろんなものと出会えて、いろんなことがあって
誕生日ってそんなことを祝うことだって聞いてたから
喜ばしくないっていうのは、少しびっくりだった。
「どうしてですか?」
ぼくの問いかけに、679さんは低いトーンの声のまま言葉を続ける
普段から思ってはいたけど、この人はもう少し楽しそうに話せないのでしょうか
435 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:00:35.32 ID:g9aZiUDO Be:
「我々機械は永久の命を約束されているようでいて、そうではないのです」
「今朝部屋の時計が壊れてたように、いつ動かなくなるかはわからない。」
「明日急に壊れるかもしれないし、もしかしたら数百年存在を続けることができるかも知れない」
「…」
「一つ歳を重ねると言うことは、確実に一つ壊れる日に近づくという事実」
つまり、誕生日は壊れる日に近づいている証拠だとでも言いたいのかこの人は
だとしたら、なんてネガティブ思考な人だろう。
679さんのネガティブ思考は今始まったことじゃないですが
「もうっ!折角のお誕生日にそんな重たいことばっかり考えてて楽しいですか?」
「楽しいわけがありません。しかしそれが真実」
あぁ
いつも何かあるとすぐにこうなんだから
『それが事実』『それが現実』って
せっかくのお誕生日くらい、たまにはリアリスト気取るのやめたらいいのに
「ふーんっだ」
「神様?」
誕生日って、この世に生を受けたことを祝う
すごく喜ばしくて素晴らしい日なのに
そんな日に喜びから目を背け、までまだ来もしないいつかの未来を心配し続けるなんて
436 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:01:32.20 ID:g9aZiUDO Be:
「679さんなんかもう知りませんっ」
「…」
ささやかでもお祝いしようと思っていた自分が、なんだか無性に虚しくなって
679さんに背中を向けて、ぼくは執務室に閉じこもった。
ドアに背を預けて、ぺたりと床に座り込んで
「…なにしてたんだろ、ぼく」
やっぱり、誕生日を祝うなんて
ぼくには無理だったんでしょうか…
437 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:03:50.99 ID:g9aZiUDO Be:
〜〜〜
〜〜
「…何故?」
私は神様に聞かれたことに答えたまでなのに
何故か神様は怒ってしまわれた。
わからない。
何を怒ることがあったのだろうか
「おまえ 神様 怒らせた」
いつから居たのか、ぬぅっとミスターポポが傍らに姿を現す
「私は事実と私の考えを述べたまでです」
「カタブツ…」
「言われ慣れてます」
堅物扱いは慣れているが、わからない
神様は何故怒ったのか
何故?
部屋の時計が壊れたから?
ミスターポポの言葉を適当に処理しながら考えを続ける
しかしいくら悩んでも答えは見つからない。
「ちょっと ツラ貸せ」
今それどころでなく思考が忙しいのだが
とりあえず頭が無くとも考えを続けることは可能だ
スタンガンの一件以来、頭部にはアイカメラとセンサーの類しかない
思考ベースは胸部に移動した。
「どうぞ、壊さないでくださいね」
ミスターポポに生返事を返しながら頭を外し、渡す
「アラレちゃんか おまえは」
どうやらそういう意味ではなかったらしい。
438 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:05:02.66 ID:g9aZiUDO Be:
「神様 一ヶ月くらい前から クリリンや 孫悟飯に ニンゲンの誕生日の祝い方 聞いてた」
「…」
「それ踏みにじる気なら ミスターポポ ようしゃしないぞ」
突き返された頭部を元に戻しながらミスターポポの話を聞いていた。
神様が、誕生日の祝い方を聞いていたと
つまり
神様は製造月日を祝おうとしてくれていた、ということだろうか
だとしたら、私は神様に申し訳ないことをしたのだろう
私はどうするべきか
謝るべきだろう
しかし私は謝罪すべきことは言っていないつもりだ
私は…
「失礼。たった今緊急の用事ができました」
「あ 逃げた」
私の生存論で神様が傷ついたのならば、私は私の存在論で神様にわかってもらおう
439 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:08:18.85 ID:g9aZiUDO Be:
〜〜〜
〜〜
◇執務室◇
「あんな言い方って無いと思います…」
考え方の違いだと言ってしまえばそれきりなんでしょうが
なんだか腑に落ちない
せっかくこの世に生まれることができたのだから、まだ来ぬ死を恐れるよりも今ある生を喜ぶべきではないのかなと
ぼくは思うのですけど
「…はぁ」
思わずこぼれるため息
考えてもどうしようもなくて、もう一つため息をついて
ぼくは執務室から外にでた
このまま膝を抱えて悩んでいたって何にもならないですから
が
679さんの姿はなく
そこではポポさんがぼんやり遠くの空を眺めているだけだった
「ポポさん?あの、679さんは…」
「あいつ 逃げた」
「…」
逃げた、って…
なにも逃げること無いじゃないですか…
「ヒトツ死に近づく、かぁ…」
言われて見れば、それも真実のヒトツなんだとは思う
けど…
「…」
生きている今のことよりも死ぬいつかのことを考えて生きるなんて
そんな考え方って、生き方って、寂しいじゃないですか
440 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:11:40.50 ID:g9aZiUDO Be:
「先ほどはすみませんでした」
「きゃあ!」
気配も足音もなかったのに、既に隣に彼は立っていた
向かい風に少し乱された髪を気にすることもなく、まっすぐに
「どこいってた」
「少々研究所に忘れ物を取りに」
「あとにしろ 常識的にかんがえて」
「私は常に常識的に考えてますよ、ミスターポポ」
ポポさんと会話を交わし、すぐにそのまっすぐな眼がぼくに向けられた
刺さりそうなほど、まっすぐに見据えられた眼
「…」
「神様、申し訳ありませんがやはり先ほどのが私の考え方です」
「…はい」
揺るぎも、迷いも無い機械の眼が
跪いて視線を合わせる
「しかし、もし私に存在する目的があるのなら、少なくとも今の私はあなたに会うために存在しています」
「679さん…」
「1日1日、破壊へ近づきながらも、あなたの傍で破壊への道を進めるのなら悪くない」
「むしろそれは喜ばしいことだと、私は思います」
ふ、と
その機械レンズの眼が、嬉しそうに笑う
「…変な679さん」
「よく言われます」
441 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:13:49.39 ID:g9aZiUDO Be:
「それでですね…これを」
「?」
679さんが、コートの内ポケットから何か
折り畳まれた紙を取り出した
その紙は…
「私も神様も戸籍が存在しませんから、法の上では全くの無意味ですが、気分だけでも如何でしょうか」
「クスクス」
「何か、可笑しかったですか?」
「いえ…クスクス」
その紙は剰りにぼくらには無意味で
けれども、これからを約束するには十分すぎて
「変な神様だ」
「くすくす」
おしまい
アルェ?誕生日祝うはずが人生論とプロポーズになってしまったよ?
変だ…困った…
442 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/03/16(月) 21:16:08.30 ID:g9aZiUDO Be:
オマケ
デンデ「そういえば679さん、何歳になったんですか?」
679「当初の製造設定10歳、製造されてから10年になりますので一応20になりました。」
679「毎年改造が入ってますので製造当初から外見はだいぶ変わってますが…」
デンデ「へぇ…見てみたいな、昔の679さん」
679「その内、研究所の研究報告書でもどうぞ」
デンデ「アルバムじゃなくて研究報告書!?」
679「もちろんです」