今日も天界は晴れ
お日柄もよく、春の近づく陽気な天気
「おはようございます。ポポさん」
「おはよう かみさま」
いつも通り、ありふれた日課
朝起きて、ポポさんに挨拶
少しのお水を飲んで、いつものように下界の観察をして報告書をまとめる。
「…」
いつからだっただろう
下界は土の地面が減って、人工の地形が増えた
そしてなにより、機械人間が多く増えた。
たくさん
今や地球の全人口の三割が機械、乃至改造を受けた人間だ
ずっと昔、ぼくにいろんなことを教えて、ある日急に消えたあの人よりも
ずっと進化したのであろう機械人間達が
今日も、人と同じように地球に生きている
「…」
懐かしくも、愛しい過去。
「…だめだめ、本当に年をとると過去を懐かしむのが好きになるんだなぁ」
でも
いつの日も青い空を見上げる度に思う
あなたは今どうしているのだろうかと
「…きっと、同じ空の下にいますよね」
381 トリ見っけ ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/09(月) 18:16:18.75 ID:6ZomEgDO Be:
「ポポさん」
「かみさま どうした?」
「少し、下界に行ってきます」
ポポさんにそう告げ、ふわりと天界の外へ体を投げ出す
下界に降りるのは何十年ぶりだろうか?
もう、昔みたいに若くはないからあまりトばしては飛べないけど
ふと、過去を懐かしんでみたくなったんです
きっとこの過去を懐かしみたいと感じるのは、歳をとった証なんでしょうね
雲を抜け、昔の思い出をなぞりながら様々な場所を回る
カプセルコーポレーション…セルリング跡地…バビディの宇宙船があった場所…天下一歩闘会会場…
そして
あの研究所
けれども研究所があった場所は、もう更地になっていて
建物があった面影もなかった。
そこからそう離れていない場所にあった、コンクリート打ち出しのマンションも
なにも、消えてなくなって。
「…そうですよね」
あれから、もう百年以上軽く過ぎてるのだから
無くて当たり前なんです。
でも
なぜだか、ここに未だそれがあるような気がしていたのも、事実です。
辺りを見れば、あの頃とはなにもかもが変わっていることぐらい一目瞭然なのに
「バカだなぁ、ぼくは」
382 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/09(月) 18:17:57.18 ID:6ZomEgDO Be:
なにを期待していたんだろう
研究所どころか679さんさえも、もう
いないかもしれないのに
「…帰ろう」
春が近づくとはいえ、ここはまだ冬の気配が色濃く残る北の大地
吐く息は白く染まって消えて
過去のことなんか、すべてがその息のように消えてしまったんだから
「…ー…、」
「…?」
そう諦めて帰ろうとしたほんの一瞬だったが、不意に懐かしい声を聞いた気がした。
そんなに低いわけじゃなく、高いわけでもないあの声
「…」
もうあの頃からは百数十年が過ぎてるんだ
いるわけがないのに
なのに
寒空の中、確かにその声を聞いた気がした。
ふらふらと、幻聴やもしれぬその声に引かれるように
ぼくはただ、その声がしたような気がした方へと歩いた。
383 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/09(月) 18:19:52.53 ID:6ZomEgDO Be:
幻聴ならば幻聴でもいいと思った。
ただ、真実を知りたかった
「…!」
「ロボット人権法改悪反対運動の者です、どうぞご協力お願いしますー」
ぼくは目を、疑った
広い通りの公園に停まった白いバンと、その周りでオレンジ色のジャンパーでビラ配りをする、気配のない人達
その中に、確かにその声はあった
姿も、声も、なにもあの頃と変わらない679さんがいた
胸が、痛くなる
どうしたらいい?
ぼくは
ぼくはもう、あの頃とは変わりすぎている。
ぼくは…
はい安価。
A・声をかける
B・声をかけない
C・むしろ反対運動に参加署名する
D・終わるのを待つ
F・679、気づけ。
393 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/11(水) 01:23:13.32 ID:I1muokDO Be:
ぼくは…
「…!」
ほんの刹那、目があった…気がした。
もしも彼が本当に679さん本人だとしても
もう百年以上も会ってないんだから、ぼくを解るわけないのに
そうです
ぼくを解るわけがない
忘れてしまっている可能性だってある
通り公園に背を向け、その場をあとにする
もう
帰ろう
ぼくはなにも見なかった
それによく考えてみれば百年の年月は長く
今更会ったところで彼には迷惑がかかるだけなのは至極当前の事
なのに
「神様!?」
「!」
冷えた空気の中、頼りなさそうな不確かな声がぼくを呼んでいた
なんで?
なぜ?
振り返ると、そこには
乱れる髪も気にとめずに、ひた走ってくる
あの姿があった
「神様ですね!?」
「!」
返事さえさせてくれぬ勢いで、きつく抱きしめられた
半ば体当たりのような、ひどく乱雑な抱擁
「会いたかった…神様」
「…679さ」
いろんな思いが、こみ上げてくる
誰も訪れることのないただ広い天界で、百数十年間抱え続けた様々な想いが、溢れそうになる
394 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/11(水) 01:25:30.14 ID:I1muokDO Be:
「泣かないで…神様」
「泣いて…ないですよ?」
抱きしめられた胸から、腕から、きりきりと懐かしい歯車の音がする
カシャカシャと、懐かしい音がする
確かなそこにある温もりが、触れた身体からゆっくり伝わってくる
「…679さん」
百年もの間、もう一度こうして抱き合えることを何度夢見たことでしょうか
「会いたかった、ずっと」
抱きしめられていた身体がやっと離され
懐かしい679さんの音が少し遠のく
「103年3日と5時間45分ぶりです、神様」
「…」
無意味に几帳面な性格も、そのままで
あの頃と何も変わらない外見に、つい、そんな時間の流れなど忘れてしまいそうになるけれども
ぼくは…
「…679さん、ぼくは…歳をとってしまったでしょう?」
もう、彼が愛してくれた頃の若さ幼さが
今のぼくには、無い
何も外見の変わらない彼とは違い、ぼくは年を重ね、少なからず老いた
それは揺るぎのない事実
「…」
「…679さん?」
何も言わぬまま
肩に触れていた彼の手が、頬に、額に、瞼に、ぼくの顔中に触れる
何かを確かめるかのように、ゆっくりと
そしてその手が下ろされ、やっとその口が開かれた
395 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/11(水) 01:27:56.90 ID:I1muokDO Be:
「大丈夫、年を重ねても、あなたは魅力的です」
「…679さん、もしかしてあなた…」
嫌な予感がして、背中を気持ち悪い汗が伝ってゆく
まさか
いや、でも…
「飛行機能を緊急除去されてから103年と3日、実に長かった…あなたには話したいことや謝りたいことが沢山ある」
「…」
ぼくとはまるで違う方を向き、話す姿に
予感は、確信へと変化した。
「…、目が、見えてないんですね」
「…」
ぴたりと彼の動きが止まり、音で感知したのかゆっくりとその顔がこっちを向いた
何も言わぬまま、ゆっくりと
「…」
「…」
「…」
「…はい、お察しの通り現在私のアイカメラはほぼ見えておりません」
人の目に似せて作られた濃いブラウン色のガラスの向こう、小さな機械レンズがぴくりと動くことなくぼくを見ていた
「しかし全く見えてないわけではありませんよ、分厚い擦りガラス越しのように程度は…」
「…」
不謹慎だとわかってはいた
いけないことだとわかってもいた
なのに
ぼくは胸の中に確かな喜びを感じていた
それは少なからず年を重ね、若さを失った姿をその目に晒される事がないという、利己的な喜び
396 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/02/11(水) 01:29:36.62 ID:I1muokDO Be:
「…」
「…神様?」
「…」
「神様?どうかされましたか?」
胸の中、じわじわと沸き起こる利己的な喜びを必死に掻き消した
人の不幸を喜ぶような事はダメだと、必死に
「神さm」
「679さん、それ砂箱ですよ」
「…失礼しました」
道脇の砂箱に話しかけていた679さんの手にそっと手を重ねながらも、ぼくはただただ胸の中に咲く利己的な喜びの芽を毟り続けた
人の不幸を喜んではならないのに、湧き上がり続ける利己的な喜び…
おしまい
391 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] Date:2009/02/10(火) 00:06:59.18 ID:/gLRRUDO Be:
悩んだ結果、熟れ熟れデンデを残しては死ねないので、679にはまだ生きてもらうことにしました。
この話の終わりで死ぬ予定だったんだけど、めでたしめでたし。
そしてつまり楽しめる属性がこうなる
現代→未成長で未熟のぴちぴちロリ
未来→まだ少し幼さ残る初々しい青年期
ずーっと未来→熟れ熟れデンデ
一粒で三度美味しいとはよく言ったものですね!
679が機械でヨカッター!