デンデ「…ねぇ、679さん?」
679「何か?」
最近、以前に比べて一際目つきが悪くて口数が少ない
気がつけば眉間に縦皺が寄ってるし、口は口角が若干下がり気味で
良く言えば、強そう
悪く言えば…不良顔
679「何か?」
デンデ「い、いえ…」
ぼくの顔を見ると、その眉間の皺や目つきの鋭さは一際増して
恋人のはずのぼくが言うのもひどい話ですけど、その鋭さたるやまるで蛇…
679「…」
デンデ「…」
679さんの視線が刺さる
ちらりと見たその顔は、ひどく眉間に皺を寄せて、刺すような眼
唇は不機嫌そうに端を下げて
病人並に白い肌と相まって、…とにかく恐いとしか
679「…神様」
デンデ「は、はいっ!」
679「…」
いきなり呼ばれて、嫌が応にも声が裏がえる
まさか恐い顔だなんて思ったことがバレてたりしないだろうか
いやそれとも何か怒っているのでしょうか
347 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/01/12(月) 19:28:17.35 ID:a0Gl4sDO Be:
その表情からは、なにも窺い知れない
なのに…
679「今朝、道端に子猫が落ちていたんですよ」
デンデ「え?、こ、子猫?」
彼の言葉は、まるでその表情とは結びつかない内容だった
となると…不機嫌顔なのは虫歯でも痛いのかしら?
機械である彼の口内にミュータンス菌がいるのかどうかはわかりませんが
679「はい、黒と白のペンギンのような模様の子猫が落ちてたんです」
デンデ「くすくす」
そんな不機嫌な顔したまま道端の子猫を保護しようとしてる679さんの姿は容易に想像がついた
679さんは動物とか好きだから、きっとほおっては置かなかったでしょうから
でも
デンデ「679さん、子猫は『落ちてた』じゃなくて『いた』ですよ」
679「…」
679さんは良く言い方を間違える
なんでも言語データベースの混線だとかなんだとか
注意してみるといつだってそんな言い訳をしながら、正しい言葉にして話を最初からし直す
でも、今日の679さんはやっぱり何かが違った
彼は何もいわずに眼を閉ざして、皺の寄った眉間により一層皺を寄せた
そして、眼を閉ざしたまま話を続け出す
静かな声で
348 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/01/12(月) 19:30:28.27 ID:a0Gl4sDO Be:
679「そうですね、私も最初は『いる』だと思ってました。しかし…」
679「近づいてみれば、それは『いる』ではなく『ある』だった」
デンデ「?」
679「…」
やっと目を開いた679さんが、視線をぼくから落として
白いタイルの床に視線を向けていた
679「…事切れていたんですよ」
デンデ「…」
679「抱き上げても、声をかけても何の反応もない…」
679「大方、親とはぐれたのでしょうね」
デンデ「…」
679「冬の北海道は、小さな子猫が一匹で生きるには寒すぎる」
白いタイルに視線を落とした679さんの目はひどくもの悲しくて
ぼくらの周りを吹き抜けてゆく冬風の冷たささえも忘れてしまいそうなほど
悲しかった
679「私にはどうすることもできない。土に埋めることも、冬の北海道では叶わない」
デンデ「679さん…」
679「私には死の概念がない。私に死はなく、あるのは故障と破損だけ」
679「だから私はわからない。私は、あの子猫をどうすべきだったのでしょうか」
679「教えて欲しい。私は何をすべきだったのか」
あぁ…そっか
目つきが嫌なほど尖ってたのも、眉間のひどい皺も、不機嫌に曲がった唇も
きっとぜんぶ、悩んでた証なんだと
349 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/01/12(月) 19:31:51.51 ID:a0Gl4sDO Be:
ぼくは、何もいえずに679さんにそっと近づき
その手を掴んで胸の前に持ち上げた
その手は氷のように冷たかった、けど
デンデ「…」
679「神様…」
679さんの顔から、恐いほどの目つきが消えて、眉間の皺も消える
さっきまであんなに恐い顔に見えていたのに
もう、恐くない
冷たい手をきつく握って、見上げたその顔は
普段の679さんだった
デンデ「どうするのが正解だったかなんて、ぼくにはわかりません」
679「…」
デンデ「でも、確かに言えることがあります」
679「神様…」
デンデ「その子猫は、きっと…寂しかったと思います」
デンデ「寒い雪の中で、親とはぐれてしまって、誰にも気づかれず、寒い中…ずっと…」
679「…」
親や、見知った兄弟達と離れて
右も左もわからなくて、一人
ぼくは知ってる
だれもいないのは、寂しいから…
寂しいから、どんな形でもいいから
誰かの温もりが欲しくなる
でもそれは身体の温度じゃなくて
心の、温もり
寂しいときに欲しいのは、火の暖かさじゃなくて
心の暖かさ
350 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/01/12(月) 19:35:46.56 ID:a0Gl4sDO Be:
デンデ「だから、たとえ死んじゃってたとしても…」
デンデ「…」
679「神様…」
デンデ「誰かが…、もう死んでしまった自分の身体を抱き上げて…自分のために考えて悩んで悲しんでくれるのは…」
なぜだか、視界がゆるんでぼくの世界はぼやけてしまった
ぐにゃぐにゃと、歪んだ世界
デンデ「きっと…幸せなことだと…思います」
もう、それ以上ぼくには言えなかった
握った白い手はまだひどく冷たくて、けど、暖かかい
679「…ありがとう、神様」
静かに抱き寄せられた胸からは、泣いているような音がした
しくしく、しくしく
きっと、これは彼の歯車が回る音
わかってる
でも、彼まで泣いているような気がして
ぼくは何もできず、ただその胸に顔を埋めて涙を流した
もしも、ぼくが彼より先に死んだら
彼は、ぼくの身体をこの胸に抱いて、今みたいに悩んで悲しんでくれるのでしょうか
小さな子猫をそうしたように、しくしくと胸の歯車を鳴らしながら
悲しんで、くれるのでしょうか
おしまい