前スレ:
パラレル展開A 〜音階の無いラブソング904 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/19(水) 22:55:19.99 ID:iMu0dYDO Be:
どうにか取り返せるだろうか?
ぼくに、彼の記憶が
彼の身体に残る、感覚の記憶一つ一つに問いかけて
彼に、思い出してもらうことが
できるだろうか
「…」
目の前のその人は
一週間前となにも変わらない無表情な仏頂面
「ねぇ、679さん…」
「…何か?」
手を、握ると
その手はいやに冷たかった
いいえ
正しくは、冷たいわけではなくて温もりがないだけ
「…679さん」
「はい」
「…お願い、きいてくれますか?」
体中に残るメモリーに問いかける
そのためにはこれしかないと思った
「…」
「ぼくを…抱いてください」
空気が固まる
…空気というか679さんが固まる
「…」
「…」
かしゃかしゃかしゃ、というあの音だけがイヤに激しく
物音一つ無い室内に響いた
「…なにを仰っているのか理解不能」
「…わか、りませんか」
椅子に座ったままの彼に近づき、顔を寄せる
905 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/19(水) 22:58:52.08 ID:iMu0dYDO Be:
無表情なのに、表情豊かなガラスレンズの目
なにも、変わらない
彼は、なにも、変わらない…
なにも変わらないのに、まっさら
切なくて、寂しくて、愛しくて
ぼくは自分から彼に唇を重ね…
「いけません、神様」
「!」
重ねようとした唇が、彼の手のひらに阻まれる
「どうして…?」
「何故って…それは…」
「…」
「…」
しばしの沈黙の後
ぼくの口を阻んでいた手がゆっくり動き、彼の長い指先が静かに空虚を指した
…いや、違う
指したのは空虚ではなく…
ドア?
指さされた先にあったのは、この部屋のドア
灰色した、ドア
「…」
「…?」
彼はスッと立てられた人差し指を、そのまま唇にあて
『静かに』
と、ぼくに仕草で告げた
意味が分からない
けど
とりあえず黙っていろという意味なのは解ります。
彼はそのまま足音もなくドアに寄り
そして
一気にドアを引き開けた
「きゃあ!」「うわっ!」「やんっ!」
それと同時に部屋の中に三人の人影が、文字通り転がり込んできた
906 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/19(水) 23:01:05.38 ID:iMu0dYDO Be:
「女研究員、姉型、妹型、何か用ですか?」
「あはは…、よ、用というか…」
「通りかかったら『抱いてください〜』なんて過激な言葉が聞こえたもんで…」
「ついつい中の様子が気になって…」
「…」
ぼくは顔に血が集まるのを感じました
顔から火が出るってこのことを指してるんだ、って、胸を張って言えるぐらい顔が熱くなって…
とにかく恥ずかしいです
「うんうん、我が弟ながら愛されてるなぁ〜。お姉ちゃん感動しちゃったよww」
「679ってば『理解不能〜』だってぇ!白々し〜なぁ〜wwww」
「そんな怖い顔しないでよ、私たちはあくまであんたの回復とか性欲とかまぁいろいろ気になって…wwwwww」
「…」
鉄砲玉のようにぽんぽんしゃべる彼女たちに、679さんも今に卒倒しそうに見える…
表情はほとんど変わらないけど、なんかいろいろ679さんから音がして
たぶん怒ってる…んだと思います
でも
それよりも、ぼくは気になってたんです
679さんが、ぼくのことを『神様』って…
記憶のないまっさらな状態なら、ぼくが神だなんて解るわけがない
もしかして…
907 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/19(水) 23:02:55.45 ID:iMu0dYDO Be:
デンデ「ねぇ、679さん」
679「はい?」
デンデ「ぼくの名前を言ってみて」
679「…デンデ、それが何か」
デンデ「…」
679「…あの?」
デンデ「じゃあ、カプセルコーポの社長令嬢の名前とその配偶者の名前は?」
679「ブルマさんとベジータさんがどうかしましたか?」
デンデ「…」
679「神様?」
デンデ「じゃあ、ナメック星の神龍の名前は?」
679「…ポルンガ?」
ぼくは確信した
それと同時に女研究員さんも異変に気づいたらしく、Pタイルの床から慌ただしく起き上がると679さんに駆け寄って
「679?…まさかあんた記憶が」
「?」
「せ、精密検査!姉型!空いてる研究室探してきて!妹型!博士呼んで!」
急にまた辺りが慌ただしくなって
姉型さんと妹型さんがばたばたと走って部屋から消えた
残った女研究員さんはしばらく679さんに何か確認した後、目を輝かせぼくに視線を合わせた
女研究員「すごいわデンデちゃん!記憶が…メモリが!」
デンデ「いえ、あの、でもぼくなにもしてな…」
姉型「第二研究室空いてた!」
妹型「博士第二研究室に行かせといた!」
908 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/19(水) 23:05:44.00 ID:iMu0dYDO Be:
そこからはバタバタしすぎてて
あんまり記憶にないです
ただぼくは、第二研究室って書かれた鉄のドアの前で679さんを待って30分
ただただ、30分待って…
「ふぅ」
でも、まず出てきたのは女研究員さんで
彼女はにっこりと笑うと、少し困ったように眉をハの字にしていた
「ごめんね、デンデちゃん。679はメモリが壊れたんじゃなくて…」
「壊れたんじゃなくて?」
「…どうも電気ショックで一時的に激しいメモリの混乱が起こってただけみたい」
「…」
「それで、やっとメモリの混乱が収まってきて…今に至るんだけど」
肩から、脚から、とにかく身体から
立ってもいられないほどに力が抜けて、ぼくはへにゃへにゃとその場に座り込んでしまった
一歩遅れてぼくを襲う、安堵のため息
「つまり…679さんの記憶は、無事?」
「そう、なるわね」
申し訳なさそうな女研究員さんの笑顔
でも、今は事実が嬉しくてたまらない
きっと彼女もそうなんだと思います
だって、どんなに申し訳なさそうな顔をしても、目には嬉しそうな笑みがある
909 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/19(水) 23:07:58.80 ID:iMu0dYDO Be:
「神様、ご心配おかけし申し訳ありませんでした」
女研究員さんに次いで研究室から出てきた679さんが、膝におでこがくっつきそうなほどに頭を下げて謝ってくるけど
「679さん、顔、あげて?」
「かみさ…」
顔を上げた679さんにぼくはきつく、きつく抱きついた
嬉しくて
嬉しくて
嬉しくて
とにかく嬉しくて
もう二度と、メモリを失った姿なんて見たくないと心から思った
おしまい
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