パラレル展開A 〜音階の無いラブソング

858 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:11:44.58 ID:2ZHrVIDO Be:
>>742
〜パラレル展開A〜音階の無いラブソング


一歩踏み出せば、雲の下はるかな下界に行くことができる

正直、怖かった
怖くて怖くて、脚なんか震えてた…と思います

でも

なけなしの勇気を振り絞って
ぼくは、飛んだ

今ならまだ引き返すこともできる、と、ぼくの中で何かが囁いたけど
ぼくは、引き返さなかった

ただ一直線に、あの研究所へと飛んだ

ただひたすら、679さんが無事であることを祈って


859 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:13:35.22 ID:2ZHrVIDO Be:

研究所は騒がしかった
普段の数倍、とにかく格段に騒がしかった
みんな、ばたばたと忙しそう

そんな騒がしい最中、申し訳ないとは思いながらも
ぼくは通りかかった姉型さんを呼び止めた
忙しいだろうに、姉型さんは嫌な顔なんか少しもせずに、ぼくに視線の高さを合わせてくれた
それは679さんと同じ仕草で…

そして何度も『ごめんね』と

「本当にごめんね、デンデちゃん…うちのスタッフが…あんなこと」

「…」

あ ん な こ と

口の中に、舌の上に、喉の奥に
あの感触が一瞬で蘇る
男のモノが…

「…」

今にも吐きそうになった
でも
耐えた
耐えて、ぼくは無理矢理に笑顔を作り首を横に振って平静を装ったけど

…たぶん、誰が見ても平静なんかじゃなかったと思いますけど
ただひたすら、もう今はその件には触れてほしくなかった

「い、いいんです…あれは…もう」

「…ごめんね」

もう一度謝り、姉型さんは申し訳なさそうに表情を曇らせる
なんだか、こっちが申し訳なくなってしまいます。
話が途切れ、存在さえも周りの忙しい騒がしさに飲み込まれてしまいそうになってしまう


860 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:18:00.68 ID:2ZHrVIDO Be:
けれど、いつまでも黙ってるわけにはいかない
ぼくは意を決して、ここに来た意味でもある質問を、姉型さんに投げかけた

「…あの、679さんは…」

「679は…」

「…」

「…ごめんね、679は…679は…」

姉型さんの表情は曇って、今にも泣き崩れてしまいそうになる

それは当たり前ですよね。
だって彼女は679さんのお姉さんです
肉親…という言い方が彼らにも正しいのかは解りませんが、とにかく身内なんですから
ぼくよりも、彼女の方が辛いでしょう

「…」

「姉型!」

「!」

かつかつと堅いヒールの音と一緒に、女研究員さんが駆けてきて
よく見知っているその顔は、数日前に見た時よりもなおさら疲労を増しているように見えて

「あらデンデちゃん…」
声にも疲労が見え隠れしていました

「…そういえばデンデちゃん、あなた過去に消したはずの679のデータを呼び起こしたことがあったわね」

「え、あの…」

「ちょっと付いてきて」

「え、え?」

いきなりぼくの手を引いて歩き出す女研究員さんの声が、何かを思いついたような様子で急にどことなく明るくなった


861 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:19:18.15 ID:2ZHrVIDO Be:
けれども、ぼくの手を引っ張る、その女性らしい手は
疲労からか張りを失っている気がしました

申し訳なくなってしまいます

「この間の件は本当にごめんなさいね、うちのバカスタッフのしたことは本気で詫びるわ」

「…」

「でも今あなたの力が必要なの、679のデータが壊れたのよ」

「…壊れ」

腕を引っ張られながら、強引に連れてこられたのは
灰色のドアの前

「こんなことあなたに頼むのはお門違いだってわかってる。けどあなたが最終手段なの」
「…かいつまんで説明するわ」

「…はぁ」

女研究員さんの話ではこうだ
679さんはあの電気ショックでメインメモリが完璧に壊れてしまい
今、このドアの向こうにいる679さんは、基礎知識以外何もないまっさらの679さんだそうで

そのまっさらの679さんと話をするなりなんなりで、記憶を呼び戻せないかと

「…でも、メインメモリ?ってのが壊れちゃったんですよね?それじゃあ記憶を呼び起こすなんて無理なんじゃ…」

「そうね、ふつうは無理よ」

「じゃあ何で…」

「でも、デンデちゃんは過去に679のクリアーデータを復活させたことがあったわ」

「…?」


862 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:21:17.53 ID:2ZHrVIDO Be:

話が飲み込めない
確かに、ずっと前にぼくのことだけを消去された679さんが
ふとしたことで思い出してくれた件はありましたが
それとこれとは話が別でしょう

…でも
女研究員さんの言いたいことは何となくわかった気がしました
彼女は万が一、億が一の可能性にでも賭けたいんだと

「…お願いできないかしら」

「…」

でもぼくだって、記憶の無い全くの他人のような679さんを
見たくはなかった

見てしまうと、現実を受け入れるしかなくなってしまうから
見たく、無かった

「…可能性は、億に一でもあるんですか?」

「…説明するとね、679たちには全身にサブメモリがあるの」

「…サブ、メモリ?」

「ええ、鼻腔なら匂いを記憶する、手なら触ったものを記憶する、そういう感覚的なものを記憶するためのメモリ」
「ほら、ヒトにでもあるでしょ?パソコンのブラインドタッチのような、記憶よりも感覚に依存したもの。あんな感じのものね」

「つまり…」

「ええ」

女研究員さんがゆっくりと頷く
その顔には、疲れの奥に確かな諦めない意志があった

「そのサブメモリに呼びかけることによって、記憶の復活は稀に可能…である。ということね」


863 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:22:52.30 ID:2ZHrVIDO Be:

「…頼めないかしら」

「でも…」

「…」

強い、母の眼差し
そんな目で見られたらぼくにはもう、頷くことしかできなかった

ドアノブに手をかける
ひやりとした金属の冷たいノブの感触が伝わってきて
ドアが異様に重たく感じた

それでも押し開けたドアの先には
679さんが、いた
まっさらの679さんが、病院のそれのような簡素な灰色の椅子に座って
いた

「…」

部屋に踏み込み、ドアノブを離す

「…ごめんなさいね」

閉じて行くドアの隙間から、背中にかけられた女研究員さんの言葉がひどく頼りなげだった


864 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:25:54.43 ID:2ZHrVIDO Be:




「679…さん?」

「はい」

変わらない声
少し抑揚が薄くって、そんなに高いわけでも低いわけではない、聴き馴染みのある大好きな声

「…ぼくのこと、わかりますか?」

「いいえ、申し訳ありませんが判りません」

「そう、ですよね…」

何も、話せる話題がなくて
会話はすぐに途絶えてしまう

……

ぼくは、どうしたらいいんだろう
無理にでも話をすればするほどに、記憶のない679さんはまるで679さんではないような気がして
679さんの外見と、679さんの声をした全くの別人としか思えなくなってくる

苦痛でしかない時間が、刻々と流れて行く

「…」

「…」

もう、会話をする気力もない

もう679さんは679さんじゃないんだって
気が付けばぼくはもう、心のどこかで諦め始めていました

会話が途絶えてどれほどか
30分かそこらは経過してたと思います

ぼくはやることも話しかけることもなくて
何気なく窓に手をかけ、退屈しのぎに歌を口ずさんだ

つい数時間前、天界でも口ずさんだ歌を


865 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:27:02.87 ID:2ZHrVIDO Be:

「…♪」
「遠い遠い空、浮かぶ雲が誰かに見えてくる♪」
「♪…今日あったこと、伝えたい」
「探すけれども…会えないと知っていた♪」

歌が、だぶる
自分と、現状と

もうぼくの知っている679さんはいなくって、もっとたくさん話したいこともあったのに
どんなに探したって、もう、あの679さんはいない…

視界が涙で歪んだ

会いたい
679さんに

歌の続きは、知らない


866 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/17(月) 03:29:41.96 ID:2ZHrVIDO Be:
「…」

「でも負けたりしないよ」

「!?」

「心の中にいるから」

「な、なんなんですか!?」

「あなたが今歌っていた曲の続きですよ」

そう言うと679さんは、全く音程のない歌を続けた

『そう悲しんでいても』

『幸せはやってこない』

『きっと僕が笑わなきゃ』

『君も笑顔になれない』


それはまったく、音階なんか存在しない歌声で
胸がきゅう、と締め付けられるようだった

とにかく胸が切なくて、堰を切ったように涙があふれだした

『そう心に決めたよ』

こんなにも音痴で、歌がへたくそで
679さんは、記憶を失ってもやっぱり679さんで

切なくて、苦しくて、嬉しくて、椅子にすわったままの679さんに抱きつき泣いた
息ができないほど、声を上げて泣きました
泣くことしか知らない、子供のように
ひたすら、ずっと

頭が撫でられる
優しい、手

「…もう、涙は拭いて」



続く・・・。


891 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/18(火) 19:08:20.02 ID:f/cVY.DO Be:
どうにか取り返せるだろうか?

ぼくに、彼の記憶が

彼の身体に残る、感覚の記憶一つ一つに問いかけて
彼に、思い出してもらうことが
できるだろうか

「…」

目の前のその人は
一週間前となにも変わらない無表情な仏頂面

「ねぇ、679さん…」

「…何か?」

手を、握ると
その手はいやに冷たかった
いいえ
正しくは、冷たいわけではなくて温もりがないだけ

ぼくは…



それから一週間後
なんとそこには元気に天界に通い詰める679の姿が!

679「あのときは本当に驚いたよ。もう二度と、スタンガンなんかゴメンだね!」

〜fin


892 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/18(火) 19:12:38.98 ID:f/cVY.DO Be:
さて
冗談は置いといて、展開に困ったので安価

A・エロ展開で割りと即回復
B・真面目に時間をかけてゆっくり回復
C・ここからギャグ展開で
D・実は忘れてなんか無い
E・そのほか


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