あれから、幾日ほどが経ちました
679さんが来なくなっただけ。
それ以外は、至っていつも通りの日常
…いいえ
679さんと出会う前の、日常に戻っただけ。
あの日のことは、毎晩のように夢に見て魘されるけど
ぼくは、元気です
ポポさんもいるし
たまにはクリリンさんや、悟飯さん達も来てくれる
679さんがいなくても寂しくない、なんて言えば嘘になりますし
あの男にされたことが何ともないなんて、口が裂けてもいえません
でも
嘆いても、恨んでも、時が戻る訳じゃありません。
「…♪」
報告書を書きながら、いつだったか下界で聴いたうろ覚えの歌を何気なく口ずさんだ
「♪今日あったこと、伝えたい」
「探すけれども、会えないと知っている♪」
「♪…でも、負けたりしないよ」
「…」
報告書に走るペンを止め、遠い空を見上げた
ふと、679さんはどうしているだろうか、なんて考えてしまう
本当に壊れちゃったのか、少しだけ信じ切れてなくて疑ってるぼくがぼくの中にいて
今にも、神様。なんてぼくを呼びながら、無表情を引っ提げてドアをノックしてくれそうな
そんな気がしてしまう時が、多々ある
742 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 04:48:24.88 ID:Mqwth6DO Be:
会いに行こうか?
でも、もし本当に壊れてしまって
679さんは身体さえ跡形もなくこの世界から消えてしまっていたとしたら?
そんなの耐えられない
じゃあ会いには行かない?
でも、もしも679さんが運良く壊れてなんかなかったりしたら?
会いたい
「…」
ぼくはペンを机に置き、決意をした。
「…行こう」
でも
いざ天界の端に立ち、下界に行こうとすると
脚が竦んでしまう
あの日のこと思い出して、恐い
「…」
ぼくは…
A・無理にでも勇気出す
B・やっぱり恐いよね
750 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:50:35.80 ID:Mqwth6DO Be:
〜続・砂はもう一度時を刻む〜パラレル展開B
一歩踏み出せば、雲の下はるかな下界に行くことができる
でも
ぼくは…
その一歩が踏み出せなかった
逃げるように執務室にこもり、少しの勇気さえ持てない自分が悔しかった。
下界が怖かった
見知らぬ男の人が怖かった
679さんの真実が怖かった
「…っ」
ぼくは、指輪と鍵をハンカチで包み、机の引き出しの奥深くに隠し
弱さと決別し
679さんを、忘れようと心に決めた
指輪も、鍵も、本当に捨ててしまえばよかったんでしょうけど
そうする勇気さえも、ぼくには無かったから
「…679さん」
涙は出なかった
泣きたいのに
悲しいのに
寂しいのに
辛いのに
涙は、出なかった
751 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:53:15.29 ID:Mqwth6DO Be:
………
月日はあっと言う間に流れた
ぼくの身長は、クリリンさんの背を追い越し、ポポさんの背を追い越し、ベジータさんやブルマさんの背にも追いつこうとしていて
気がつけばあの事件から、もはや数年の月日が経っていた
季節も巡り巡って、あの日と同じ、冬の足音が日に日に近づいてくる
執務室のこの椅子も、この間まで座ると床に足が付かなかったような気がするのに。
なんだかんだ、立ち直ってしまえば月日が経つのは早いものです
…まだ下界に降りるのは結構恐いですけど
執務室の机に向かい、報告書を書くのも慣れて
昔よりも早く、正確に書けるようになった…と思います
「さて…」
書きかけの報告書から顔を上げ、窓の外に目をやると
窓の外はいつもと同じ、まぶしいほどのスカイブルーに覆われている
そればっかりは、月日がどれほど経っても、ぼくがどれほど成長しても、変わらない
椅子から腰を上げ、執務室から、神殿から出て
ぼくは外のひんやりした空気を胸一杯に吸い込んで、吐き出した
冬は近い
かすかに香る冬の気配と、白く染まる吐息にそう思った
「…今日も下界のどこかでは、雪が降るんだろうな」
752 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:54:19.06 ID:Mqwth6DO Be:
冷えた指先を合わせながら、お別れも近づく深い秋の空を見上げた
「…」
「…寒い」
寒暖差の激しいナメック星に住むナメック星人にとってはなんてことない程度の寒さなのに
その言葉は無意識に口をついて出た
地球人に影響されたのかな、なんて考えながら
些細な寒さ暑さを感じられるのも悪くない、とも思った
「寒いですね」
誰に問いかけるわけでもなく
また、心からそう思っているわけでもない言葉をまた意識的に口にした
「…」
「寒いですか」
「!」
背後から声がして
間髪入れずに、ぱさりと背中から肩に何かを掛けられた
振り返るとそこには
「…どう、して」
彼がいた
あの頃と同じ無表情を引っ提げて
幻覚を見てるのかと思った
幻聴を聞いたのかと思った
信じられなくて、まるで嘘みたいで
ぼくは彼の頬に触れた
けど幻覚じゃない、確かに存在する
冷えた指先に、彼の温もりを確かに感じた
涙が出そうだった
…出なかったですけど
「ろ…」
753 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:55:12.55 ID:Mqwth6DO Be:
いや、違う
ぼくはハッとして、喉まで出かけた言葉を飲み込み、手を退いた
そんなワケないんです
彼がいるわけがない
だって彼は、あの日、データーが壊れて『679』としての人格は消失したはず
だから、もしもここにいるのが彼だとしても
もう彼はぼくの知ってる『679さん』じゃない
一瞬でも思わず甘いことを考えた自分に苦笑いしか出なかった
なのに
「長らく、お待たせしました。デンデ」
754 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:56:41.56 ID:Mqwth6DO Be:
「…うそ」
予想もしなかった言葉に、ぼくは言葉も思考も失って
ぼくの背中に掛けられていた彼のライダースが風に吹かれ、ぱさ、と音を立ててタイルの床に落ちた
「事情、説明しましょうか?」
「…」
事情?
そんなの聞いている暇ぼくには無かった
あの日から流すことを止めてた涙が、一つ、二つ流れ出して
ぼくの視界はあっと言う間に滲んでぼやけて、40センチも離れていない彼の顔さえ見えなくなってしまった
夢なら覚めてほしいと願った
幻なら早く消えてほしいと思った
こんなに切ない夢幻は、いらないから
でも
そこにいるのは夢でも幻でもなく
679さん、その人自身
身体がきつく抱きしめられる
幼いあの日に幾度となく体験したように
「…まず、会いたかった。もう二度と会えないと思ってました」
『ぼくもです』って、そう言おうとしたけど、あまりのことに口さえも動かなくて
ぼくは黙って、何度も頷いた
755 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:57:58.94 ID:Mqwth6DO Be:
679さんの片手がぼくの後ろ頭を撫でる
それは久しぶりの感覚すぎて
暖かかった
「…壊れた私のデータチップは別所に保管され、昨日まで私は私ではない私として生活していました」
「…」
「研究所では壊れたデータチップは修理実験用に使用されています」
「…」
ぼくを抱きしめたまま、679さんは落ち着いた口調で話を続ける
嘘みたいで、でも本当で
まるで昔に戻ったような気さえしました
幼い日、何度彼の胸の中で泣いたことでしょうか。
「しかしながら壊れたデータチップのデータの修理には成功例がありません」
「まぁ…データが壊れるという事態そのものが珍しかったということもありますが」
「…」
「そして先日、壊れたデータチップから情報を抽出し、別のデータチップに移す技術に成功したのです」
「…」
「それが一昨日」
彼の説明は、もうぼくには届いていません
いえ、聞こえてはいるんですがそれを理解するまで頭が回らなくて
ただただぼくの頭の中は真っ白で
会えて嬉しいとか、会いたかったとか、そんな言葉では言い表せられない何かで埋め尽くされていました
756 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 16:58:31.27 ID:Mqwth6DO Be:
「…あの…聞いてますか?」
「…」
彼にきつく抱きついたまま、ぼくはその言葉に激しく首を横に振った
だって、説明なんかどうだって良いんです
大切なのは、今彼がここにいるという事実
それに機械の話なんか、ぼくが聞いたってぜんぜん解りませんから
「…」
679さんはというと
少しだけ戸惑ったようにぼくの背中を撫で
説明するのを諦めたようでした
「…神様は、泣き虫だ」
様子を見に来てたクリリン「毎回誰が泣かせてんだよ…」
ポポ「な」
パラレルB
おしまい
757 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2008/11/12(水) 17:04:18.20 ID:Mqwth6DO Be:
この後の進行
A・〜続・砂はもう一度時を刻む〜パラレルA(現代軸進行)
B・未来679デンデでエロに挑戦
C・ドラめもデンデで一息つく
D・その他
続く!