どらメモ番外編 〜下校〜

前スレ:どらメモ百合 〜季節は移り変われど・・・〜


96 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 20:53:06.68 ID:z058/z2o Be:
〜〜どらメモ番外編〜〜

「うわっ、ピッコロさんまだ残ってたのかよ」

教室に駆け込んできた>>1の声に、振り返って頷く。
文化祭に向けての準備で工具を使うためにジャージ姿で
床にしゃがみ込んでいたが、立ち上がると膝を払った。
もう作業時間は終わっている。
>>1の戻りを待つ間、オレが勝手に作業を続けていただけだ。

「ちょっと遅れてるもんなー。ピッコロさん偉いなあ」
「お前を待つついでだ」
「え、あ、俺待っててくれたん?!うわーうれしい」

工具を直しながら小さく頷いた。
素直な>>1の言葉は、以前のようにオレを戸惑わせない。

99 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:00:37.05 ID:z058/z2o Be:
「委員会の方はもう終わったのか」
「うん。長くなるから先に帰ってていいっつったのにー」

もう暗いぜー、と呟きながら窓の向こうを眺める>>1に釣られて、
オレも窓の外を見た。
藍色に染まる空に、ちらちらとまだ光を放つ校舎や体育館の窓。
居残り組はまだ多いようだ。

「もう帰れる?」
「ああ」

作業をしていたベニヤ板や工具をしまってから己の席に戻る。
>>1も自分の机で帰る準備をしていた。
教科書などは全ておきっぱなしにしていた>>1が、
ここのところは真面目に持ち帰っている。
受験。
そろそろ誰もがそれを思い、ぴりぴりとし始めている。
きっとハメを外すのはこの二年の文化祭が最後なのだろう。


102 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:05:52.73 ID:z058/z2o Be:
ジャージの上を脱ぐ。
制服に着替えるための、なんてことない作業だ。
それなのに、
襟から首を引き抜いて腕を袖から引っ張り出していくさなか、
ふと、
>>1の視線に気付いてしまった。

「……っ」

何も言わず、>>1がオレを見ている。


104 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:11:00.55 ID:z058/z2o Be:
「……」

ジャージの上を、畳んで手提げに入れた。
見られている、だから、なんだというんだ。
体育の時などに着替えは見られているし、
オレは、男でも女でもないから、
着替えを見られることなんぞ、何も困らん。

保健の時間や、主人公や>>1との会話で知ったような、
男を欲情させるような身体的特徴は持っておらんし、
女に見せてはいけないようなものも、持っておらん。


106 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:18:42.65 ID:z058/z2o Be:

ズボンのウエストにかけた手が止まる。
見られて困る部分なぞオレの体にはない。
それなのに、なぜかズボンを下ろすことが出来ないでいる。

「ピッコロさん、どした」

びく、と背筋が震えた。


109 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:26:07.35 ID:z058/z2o Be:
青白い教室の蛍光灯の下、
自分の肌が青ざめているような気がした。
>>1の視線を感じながらも、
>>1の方を見ることが出来ない。

「……ピッコロさん?」

>>1の声はいつも通りだ。
どうしてもズボンを下ろすことが出来ない。
どうしてだ。>>1は友人だ。何も気にすることはないはずだ。

「なんでもない」

そっと、手を離した。
机の上に畳んである制服の上着を取って、
先にそちらから身につける。
体を見られることが恥ずかしいなんて、
感じたことは、なかったのに。


111 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:30:53.39 ID:z058/z2o Be:
見るなと言えば見ないでいるのかも知れない。
だがそう言葉にすることがあつかましいような気がして、
言えなかった。

スカートを身につけ、それから下のズボンを脱ぐ。
ズボンを畳みながら、
漸く視線を>>1に向けることができた。
盗み見た>>1は、作りかけの看板を眺めていた。
オレを見ては、いなかった。

オレの自意識過剰だったの…だろうか。


114 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:43:26.07 ID:z058/z2o Be:

「段々形になってきたなー」
「ああ」

智恵子抄。
ステージを借りる時間、このクラスで行う劇だ。
教室で行う喫茶と平行して劇の準備もしなくてはならず、
皆忙しく作業をしている。
>>1はそれに加えて委員会での仕事もあるらしく、
毎日、帰りが遅い。


オレはそれを自分の意思で、毎日、待っていた。


116 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:53:27.14 ID:z058/z2o Be:
「むだづかいと、どうしていえよう」

本の詰まったカバンを、白い>>1の手が重そうにぶら下げた。
何気なく差し出される手を取りながら、
突然ぽつりと呟かれた>>1の言葉に、一瞬戸惑ってから、ふと笑った。
脚本の中の一説だ、
オレに役は割り振られていないが、台本は読ませてもらっている。
興味を抱いて、図書館で詩集を開きもした。

「あなたはわたしにおどり、わたしはあなたにうたい」
「刻刻の生を一ぱいに歩むのだ」
「かえろっかぁ」
「ああ」

何気なく繋がった手が引かれる。
オレには人間の愛というものが解らない。
だが高村光太郎の、智恵子への気持ちが綴られた詩篇は、
愛を、恋を、知らぬオレにも伝わる何かを持っていたように思う。

>>1の手が自然にオレを導いて、
教室を二人で出て行った。


119 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 21:58:46.17 ID:z058/z2o Be:
出逢うこと、会うこと、共にあること、共に過ごすこと、
他者が他者ではなく己として己の中に生きているということ。

高村光太郎のその愛の形は、
理解出来ないものではない、と感じた。

けれど人は死す。


121 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:04:06.27 ID:z058/z2o Be:
愛する人の死というものが終わりではなく愛の過程であるように、
オレには感じた。
そうであるならば人間の愛とは、幸せなものであろう。

知りたいとは、思わないが。
オレは人ではないから、知ろうとしても、きっと解らん。

「ピッコロさん、聞いてる?」

繋いだ手がぎゅうと引っ張られ、一歩、>>1の方へと身が傾いた。


123 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:11:45.09 ID:z058/z2o Be:
「ああ、すまん」
「最近ピッコロさんぼーっとしてんじゃね?勉強しすぎじゃね?」
「そんなことはないが……」

>>1に手を引かれながら苦笑した。
オレは>>1よりも歩みが速い。
だがこうして手を繋いで共に歩くときは、
自然と>>1から半歩遅れて歩く形になった。

「智恵子抄のことを、考えていた」
「あー。俺にはよくわからんけどなあ」
「だが覚えていたじゃないか。興味があるのではないのか」
「あんまり…ただ、高村さんは幸せもんだなあと思って」
「うん?」
「うん」
「……そうだな。幸せものなのだろう」

>>1の手に少し力が入る。
俺もああなりたいと、>>1が呟いた気がしたが、聞き返す気にはなれなかった。


124 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:16:00.51 ID:z058/z2o Be:





オレの心の隅に、
オレの目が届きにくいところに押しやったまま、
忘れていた、忘れようとしている、忘れなければいけない、
小さなみすぼらしい箱がある。


125 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:17:00.10 ID:z058/z2o Be:
考えてはいけない、
掘り下げてはいけない思いが胸に浮かんだ時に、
それを鷲掴みにして放り込んでおく、くずかごだ。

中身は捨ててしまってもかまわない、くずばかりだ。


129 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:23:00.41 ID:z058/z2o Be:
しっかり蓋を閉めて、中身を見ないようにしている。
ほんとうは、もしかしたら、うつくしいものが入っているのかも知れないけれど。

「俺ばかだからさぁ、むつかしいことはわっかんねえもん」
「自分のことをバカだとか言うんじゃない」
「いいんだよ、ばかだから」
「……そんなことはないと思うぞ」
「へへ」

>>1が嬉しそうにわらう。
オレの中のみすぼらしい箱の中に、また、ひとつ、

思いを放り込んだ。


131 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:27:05.48 ID:z058/z2o Be:
「むつかしいことはわかんねーけど、」
「好きな人を好きだって言えて、愛されてる、って思えて」
「好きな人がこわれてもずうっと愛し合ってられた高村さんはさあ、」
「うらやましいよ」

「…そうか。オレには、解らないが。お前がそういうならそうなんだろうな」

かたかたと揺れるみすぼらしい箱から目を背け、
暗い道の中、外灯の白い光に薄っすらと浮かび上がる
>>1の白い横顔を眺めた。
つるりとした耳の後ろ。


132 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:29:20.33 ID:z058/z2o Be:
「高村さんの文章から読み取れる智恵子さんはすげえ、」
「びっくりするくらい、きれいで、…きれいだよな」
「…………そんな風に誰かを見ていられた高村さんがうらやましい」


135 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:33:45.65 ID:z058/z2o Be:
「そうか」
「うん」

>>1が振り返って、笑った。
何も言わず。

オレも言葉が見つからず、黙っていた。


繋いだ手だけがオレと>>1とを結んでいる。


140 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 22:44:16.80 ID:z058/z2o Be:
オレがお前をえがくとしたら、
オレが残すお前はどのように見えるのだろう。
オレの目にお前はどのように映っているのだろう。

ぎゅうとオレの手を握って歩く、>>1の白い手。

「>>1」
「なん?」
「……」



A・少し遠回りしよう
B・高村光太郎が智恵子を見つめるように、見つめたい誰かがいるのか?
C・智恵子はどのような気持ちであったのだろうな
D・なんでもない
E・他なんでもいいよ!


151 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:08:39.49 ID:z058/z2o Be:
>>142 A→C

「少し、歩かないか」
「へ?」
「遠回りを……」
「もう遅いぜ?」

ああ、そうだな、と空をちらりと見た。
もう少しでいつもの分かれ道だった。
繋いだこの白い手が、離れてしまうのが、どうしてだか惜しいと…。
その気持ちもぐしゃりと鷲掴んで、くずかごに押し込んでしまうべきか。

「んじゃあっちの公園通っていこー。明るいし」
「…いいのか?」

>>1が笑う。

「うん」


153 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:14:51.31 ID:z058/z2o Be:
委員会の愚痴や、なんでもない友人の話、
文化祭についての思うことなんかをとうとうとよく喋る>>1の、
人間の女にしては少ししゃがれた声が心地よく感じる。
藍を溶かしたような透明な薄闇を泳ぐように
耳に届く空気の振動に、
自然目を細めながらオレは歩いた。

>>1の手と自然につながれたままのオレの手。
オレにこんな風に触れて来るのは>>1だけだ。


157 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:21:01.33 ID:z058/z2o Be:
その気持ちまでも握りつぶすべきなのか、オレは迷っている。

「しっかしうちのクラス演劇部1人しかいねーのになあ」
「ん、ああ」
「ステージの時間合唱とかにしときゃラクチンなのによー」
「だが、……興味深い劇じゃないか」

オレには良く解らない話だが、と付け加える。

解らない。勿論、人間の恋愛なぞオレには解らない。
だが智恵子抄に描かれたあの感情のかたちは、
箱の中でぐしゃぐしゃに潰れた、オレが捨てた思いの何かに、
似ているような、気も、

考えを中断する。


160 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:27:56.29 ID:z058/z2o Be:
話題が演劇の話になる。
>>1ももしかしたら、智恵子抄を読んだのだろうか。
図書室にあった、うすっぺらな、あの本。
どんな思いでページを、めくったのだろうか。
本が苦手な>>1が、どんな気持ちで。

「うらやましいぜー」

何度目かのその言葉に、ふと意識が向く。

「人間から見れば、高村光太郎は幸福なのか」
「えー?あー、うーんどうかな。」

うらやましい、というのに、幸福だとは言い切れないのか。
人は複雑だ。
繋いだ手と手はこんなにも単純にこころよいのに。


161 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:35:00.60 ID:z058/z2o Be:
「でも、そだな、多分……智恵子さんがいてくれたから幸せだったと思う」
「智恵子が死んでからもか」
「……幸せだったと思う」

オレの視線に気付いた>>1が、振り返って笑った。
頷いた。
人の愛は解らない、解らないが、
オレもそうであろうと感じていたからだ。
智恵子は高村光太郎にとって他者ではなくなっていたのだ。
呼吸をするように自然に智恵子は高村光太郎の中に溶け込んでいる。
……ように、読み取れた。
オレたちが行う同化とはまた違う精神の融合なのだろう。

それが人の愛というならば、
理解出来るような気も、した。


気がするだけ、だが。


162 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:40:16.34 ID:z058/z2o Be:
「ならば智恵子も幸せ、だったのか」
「……」
「高村光太郎に愛された千恵子はどのような気持ちであったのだろうな」
「……」

よく動く口が動きを止める。
薄っすらと開いたまま動かぬ唇を横目に眺めながら、
オレはゆっくりと足を動かした。
>>1と共に歩むのに慣れたオレは、
1人で歩くときも、少し、歩く速度が遅くなったような気がする。


163 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:44:16.82 ID:z058/z2o Be:
ぎゅう、と>>1の手がオレの手を握る。
ささやかな力であった。
たわいもない、オレから見れば赤子に近いやわらかな。

「幸せであってほしいと俺は思うよ、だけど」
「うん?」

>>1は黙した。
続く言葉をオレは待っていたが、
次に>>1が零した言葉は、オレの待っていたそれではなかった。

「ピッコロさんはどう思う?」


165 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/24(水) 23:48:56.05 ID:z058/z2o Be:
A・幸せであれば、良いな。
B・オレには解らない。
C・愛し愛されていたのだろう。ならば幸せなのではないか。
D・あるいは不幸せであったのかも知れんな。
E・他何でもいいよ!


172 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:08:05.85 ID:JprXKV.o Be:
>>167 C

「愛し愛されていたのだろう。ならば幸せなのではないか。」

>>1ののんびりとした歩みが、僅かにぶれて、そして止まった。
並んでオレも足を止めた。
どうした、と声をかけながら>>1を見下ろす。
>>1もオレを見上げていた。

「ピッコロさん、愛ってわかるの」


175 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:18:50.02 ID:JprXKV.o Be:
「ん、」
「愛し愛されてるってどういうことか、わかるの」

>>1の小さな手に力が篭る。
黒い目がじっとオレを見上げている。
公園のライトを映したその瞳から、
逃れるようにオレは目を逸らした。

「……わか、らない、が」
「……わからないの」
「わからん、が……人間にとって、愛は、そういうものなんだろう」
「なんで?」


176 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:20:54.80 ID:JprXKV.o Be:
「……愛、とは…美しく、雄大なものだろう?」
「そうおもうの」
「……   少なくとも…そう、表現されていたように感じた」
「その中にいた智恵子は、幸せだったって思う?」

ぬれぬれとした黒い目がオレを射止めている。
ゆっくりと息を吸って、吐いた。

「ああ」


177 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:28:06.39 ID:JprXKV.o Be:
「多分愛ってそんなにキレイなもんじゃないぜ」

ふ、と>>1が笑って、オレの手を引くと歩き出した。
引っ張られるように再びオレも歩み出す。

「…>>1」


180 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:32:16.40 ID:JprXKV.o Be:
愛とはうつくしいものではないのか。
手を引かれるように歩くオレは、いささか混乱していた。
>>1からは、余り、ピリピリとした気配は伝わってこない。

「……だからさ、だからこそさ、」
「…うん?」
「すこしでもきれいな気持ちで、すきなひとを見ていられたら、いいよな」


181 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:35:50.84 ID:JprXKV.o Be:







なにかすとんと胸に落ちて来た気がした。
いけない。
わかってはいけない。


186 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:44:21.95 ID:JprXKV.o Be:
「俺にはまだ出来ねーみたいだけどさ…」

>>1の小さな白い手が、
オレの緑の、大きな手をしっかり握って引いてくれる。
それに助けられるようにオレは歩いた。

「すきなひとのことを、あんな風にきれいに残せる高村さんがうらやましい」
「……」
「あんなふうに、きれいに、すきなひとを見ていたい」
「…… 見ていたい、 やつが、いるのか」


>>1が歩きながらちらりとオレを見返って、
ふ、と笑った。


A・>>1「いるよ」
B・>>1「いないよ」
C・ピッコロ「…いや、 …なんでもない」
D・>>1「ないしょ」
E・その他なんでもいいいよ!


191 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:50:53.12 ID:JprXKV.o Be:
>>188 A・>>1「いるよ」

「   」

公園を抜けた路上、ちょうど通り過ぎる車のライトに照らされた白い顔の、
陰を作った赤い唇が短く囁いた。

オレたちの横を行き過ぎた車は、音を変えて離れてゆく。

「え」
「ん 車ん音で聞こえなかった?」
「あ」
「聞こえなかったならなーいしょ」


192 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:51:59.47 ID:JprXKV.o Be:





聞こえていた。
おのれの、人に比べて良すぎる耳。


194 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 00:55:02.58 ID:JprXKV.o Be:


             ――いるよ――


聞こえていたと、言えなかった。
それは誰だと、聞けないから。


198 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:02:23.43 ID:JprXKV.o Be:




赤いあの唇が、
夕陽に染まる図書室で、
どんな風に見えたかオレは覚えている。

何を紡いだか覚えている。



―ピッコロさんってさ、キスしたことあんの?―
―お前は、あるのか?―
―当たり前じゃん。―



>>1の唇の感触を知っている、オレの知らない、誰か。

忘れようと、みすぼらしい箱の中に閉じ込めていた感情が、
何かをオレに囁いた。

オレはそれをなんと表現すればよいのか、解らない。


201 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:05:59.30 ID:JprXKV.o Be:
>>1は今の会話をもう忘れたかのように、
ぺちゃくちゃと楽しげに話をしている。

相槌を打ちながらもその内容はオレの中に入って来ない。
飄々とした>>1の態度が、どうしてか、辛くて、



「>>1」
「でっさー、タカシマが、あ、三年のヤツなんだけどさ」
「>>1」
「バカなんだよwwwwwwww幾ら説明してもわかんなくて」
「>>1!」


205 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:10:50.73 ID:JprXKV.o Be:
>>1の赤い唇が、ぴたりと動きを止めた。

「……」
「なーん」

オレは立ち止まった。
>>1が、オレの腕に引き止められるように足を止める。
だが>>1はこちらを振り向かない。
まるい形の耳。

「どーしたん」

>>1の声はいつも通りしゃがれている。



A・ピッコロ「こちらを向け」
B・>>1「もう遅いから早く帰ろうぜー」
C・ピッコロ「誰だ」
D・無理矢理振り向かせる


209 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:16:10.09 ID:JprXKV.o Be:
>>207 A・ピッコロ「こちらを向け」

「こちらを、向け」
「んー?」

オレの手を掴んでいた白い手が、その力を緩めたような気がした。
オレから、握る。
>>1は曖昧に唸りながら、小さく肩を竦めた。

「なんだよー」
「……こちらを向け」
「……」

>>1が少し笑った。


210 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:18:43.92 ID:JprXKV.o Be:
「ごめん、」

>>1が笑い声で囁く。

「ちょっと、待ってな」


212 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:21:31.41 ID:JprXKV.o Be:

どうしてか、解らない。
だが、外灯の切れ目、闇の掛かった>>1の後姿を見つめながら、
オレは待った。

>>1の手はオレの手と繋がっている。

「……」

>>1の息遣いが、人よりも良いオレの耳に届く。
震えるような。


216 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:29:33.03 ID:JprXKV.o Be:




「ん」

はー、と一つため息のように呼気を漏らし、
ゆっくりと>>1が振り返って、笑った。

なぜか、オレは、ひどく驚いていた。

「なーん。どしたー」

何に驚いているのかすぐには解らなかったが、
>>1が笑い声で問うて来た時に気付いた。

オレはどうしてだろうか、>>1が泣いているのではないかと、
理由もなくそう思っていた。

>>1が泣くことなんて何もないのに。


うつくしいこころで見つめていたい、
すきなひとがいるということをオレに告げようとして、
告げられず、
それを理由に>>1が泣くことなんて、ないのに。


217 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:30:38.98 ID:JprXKV.o Be:






おのれの空回りにひどい恥ずかしさを感じた。
>>1の唇が緩やかな弧を描いている。

笑っている。


だが、


218 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:32:04.97 ID:JprXKV.o Be:


「いち、」
「んー?」

>>1の手にはすっかり力が入っていない。
オレが指を解くと、ぽろりと>>1の小さな手が零れ落ちた。

その手をオレは、>>1の頬に伸ばす。
ごく自然な気持ちで。


220 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:32:56.16 ID:JprXKV.o Be:
「泣いている」
「……へ?」

にんまりと、笑みを浮かべたまま、>>1が小首を傾げた。
するりと滑り落ちた涙をオレは指でそっと掬う。


222 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:38:00.84 ID:JprXKV.o Be:
「え、あーああ、ごめん」

>>1がなんでもないように呟いて、
オレの指から逃げる。

一度濡れてしまった頬へ次から次に光のつぶが落ちていく。
それを、オレは、この指でぬぐってやりたいと感じた。

「>>1」
「ごめん」

何がだ。

「ごめん」


223 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:41:15.67 ID:JprXKV.o Be:
困ったような顔で、それでも赤い唇に笑みを刻んだまま、
>>1は逃げるように後ずさりながら目元を拭う。

「ごめん…」



A・唇
B・手
C・図書室でのあれについて
D・主人公


233 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:54:22.28 ID:JprXKV.o Be:
>>225 A・唇

赤い唇。
常よりも充血しているかのように、見えた。
笑みを浮かべたままのそれに、
視線が引き寄せられた。

泣いている>>1を、一歩追いかける。
その涙を止めてやりたいと感じるのは、当たり前のことだろう、だが、

それよりもその赤さに惹き付けられるオレは、
おかしいのだろうか、おかしいのだろう。

「!」
「>>1」

触れた。
>>1の吐息が指に触れ、爪の先がしいんと湿る。


235 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 01:59:12.58 ID:JprXKV.o Be:
「なに、」

>>1の声が小さく零れる。
その声が指を濡らした。
目元を拭っていた>>1の手が曖昧な位置に浮いている。

ふにゅりとやわらかな赤い唇は、
オレの指の下で容易くよじれる。

「… な」


237 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:05:20.32 ID:JprXKV.o Be:
遠い灯りが映りこんで、濡れた>>1の黒い瞳が輝いている。
オレを見上げてくるその目に、戸惑いを感じた。
だが視線が合うとすぐに外される。

「……いち、」

ビクリと薄い肩が跳ねる。


238 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:07:13.68 ID:JprXKV.o Be:
A・もう決着つけていいよ
B・DBアニメなみに引き伸ばすよ


243 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:20:17.86 ID:JprXKV.o Be:
>>240 A・決着つけるよ

指を、ゆっくりと動かした。
唇のふくらみがよじれゆがむ。
指が、>>1の吐息で暖かく湿っていた。

「……何…なんだよ、」

うすく白いまぶたが震えていた。

「わからない」


夕焼けに溢れた図書室で、
思い描いたシーン。

お前の唇と重なる、誰か。


245 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:28:35.40 ID:JprXKV.o Be:
「……  お前、が、 」

自分の声が、妙に低い。
話しづらい。
>>1の濡れた目から、ぽつ、と時折涙が落ちた。

「…誰と、…したのか、 …ずっと ……気になって……」

>>1がじっとオレを見ている。
指の触れた唇が、微かに震えていた。
それがかわいそうで、切なくて、何度も撫でる。

「お前の、ここを……   誰かが知っていると…」


246 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:32:28.76 ID:JprXKV.o Be:






オレも、…知りたい。


248 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:38:35.52 ID:JprXKV.o Be:


いいか、と聞けなかった。
ダメだと言われればきっとオレは踏み込めないと、解っていたから。


249 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:45:10.92 ID:JprXKV.o Be:

細い首に手のひらを滑らせる。
>>1の吐息に熱く湿っていた指が冷えた。せつない気持ちに襲われる。
ぐい、とうなじを引き寄せると、かくんと>>1が上向いて。
屈みこむ。

「  、」


指で触れるよりもずっと柔らかいそれは、
大切に扱わねば壊れてしまうのではないかと不安にすら感じた。


253 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:52:00.70 ID:JprXKV.o Be:







「なーんだよ、してみたかったん?  キス」

止まった涙。
からかうような笑い声。


256 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 02:56:41.88 ID:JprXKV.o Be:


オレの手から逃れるように身を捩った>>1が、
いつの間にか落としていた鞄を拾い上げる。

くすくすと笑いを残しながら背を向けようとする、
その、
うすっぺらい肩を掴んだ。

「なんだよー。痛い、」

「オレだろう?」


257 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:00:22.14 ID:JprXKV.o Be:
「は?何が、」
「……」

ゆがんで笑う赤い唇。
妙にめだつそれが、本当はとてもよわよわしいものだと、
もうオレは知っている。

「変なピッコロさん」

オレに肩を掴まれたまま、ふいと前を向く>>1を引き寄せる。
僅かによろけた>>1の背がとんとオレの胸に当たり、
慌てたように体勢を立て直す。

「なーんだよ、帰ろうぜ、」
「お前の、すきなひとは、オレだろう?」


259 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:06:58.60 ID:JprXKV.o Be:
「……何いってんの」

笑い声。
ずき、と胸が痛んだ。

「何言ってんの、ピッコロさん」
「……お前の、」
「黙れよ」

いらだったような口調は、
オレに対しては余り用いられない。
慣れぬ荒荒しさに、僅かに心が竦んだ。

「ピッコロさんはすきだよ、だってトモダチじゃん。一番ナカヨシじゃん。だろ?」

ああ、友人だと。
友人だとオレも

ずっと友人でいたいとオレも思っていた。


262 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:13:53.71 ID:JprXKV.o Be:

オレのその言葉が、お前を拒んでいたのだろうか。
お前が大切だった。
オレに無造作に近づいてきたお前を、
離したくなかった。

お前の「友人」でいることが、こわいほど居心地良かったんだ。
失いたくないと、思うほどに。


だから、見て見ぬふりを

気付かぬふりを

考えぬふりを、していた。


264 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:20:59.47 ID:JprXKV.o Be:
「……お前に、見つめられていたい」
「なに、」
「こちらを向いてくれ」

ぶんぶん、と頭が振られる。

肩を掴んでいた手を、
ゆっくりと下ろしていく。
オレの腕より随分と細い、少し力を入れたら折れちまいそうな、
そんな腕を辿って、手。白くて小さな。

そっと包み込む。


「……お前が羨ましいといった、まなざしで、」

「お前がオレ以外の誰かを、……見るのは、イヤだ」

「お前の唇を、オレ以外の誰かが……、」


どう、言葉にすればお前に伝わるのかが解らない。


267 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:29:12.78 ID:JprXKV.o Be:
「  っ、 ……」
「>>1?」

オレの手の中で小さな手が震える。
どうしたら良いのか解らない。
どう伝えれば良いのか解らない。
オレが人間ならば、解ったのだろうか、
そう思うと悲しくなる。

「……  俺は、…あんな風に、 きれいな目で、見てらんね、」

のどがつぶれたような声だった。
震える>>1の肩をどうにかしてやりたいと思ったが、
何も、思いつかない。
でくの棒のように突っ立ったまま、
小さな手を握り締めていた。

「すげえ、やなやつ、ッ …だし」
「そんなことはない」
「そーなんだよっ」


268 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:33:50.55 ID:JprXKV.o Be:
なんと言ってやれば良いのだろうか。
震える肩を、震える手を、泣いている声を、
どうしてやれば良いのだろうか。

オレには何も解らなくて、
それなのに、>>1が欲しいと、
>>1のまなざしが欲しいと、思っている。
オレの知らぬ他の誰かに、……とられたく、ないと。
オレのものでもないのに。

ひどく浅ましい気持ちだ。
感じてはいけない思いだ。
見てはいけない自分だ。

しまいこんだまま目を逸らしていたそれ。


270 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:38:08.75 ID:JprXKV.o Be:
「我慢してたのに」

怒っているような声だ。
だが、泣いていると、解ってしまうから胸が痛む。

ひく、としゃくりあげる>>1の肩。

「ごめん」
「なに、」

どうしてお前が、謝るのか。


271 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:39:20.77 ID:JprXKV.o Be:
「我慢出来てなかった 俺」

隠しきれない嗚咽が混じる声に、
どうしようもない気分になる。
言い表せない心地だ。

オレも悲しくなってしまうような、
泣きたくなるような。

笑っていて欲しい。

「ごめっ …、 俺、 っ 我慢しきれてなかったから…っ」


272 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:47:46.59 ID:JprXKV.o Be:
「これから、…ちゃん、…と、我慢する、から…ごめん… …ごめ、 …」
「何を言って…、いる、>>1」

握った手を引っ張る。だが>>1は振り向こうとしない。
オレと人間である>>1の違いを余り、感じさせたくないと思っていた。
だが、どうしても我慢出来ず、
無理矢理こちらを向かせる。
悲鳴のような声が上がった。

必死で顔を俯かせる>>1を無理矢理上向かせる。

「っ … ごめん …、」
「なぜ、謝 …る、 ? オレはお前に、」
「ちがう、ピッコロさんそんなひとじゃ、ないっ」

ぐしゃぐしゃに濡れた目元を歪めて>>1が首を振る。


274 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 03:56:33.87 ID:JprXKV.o Be:
オレから逃げようとする>>1を、逃がさない。
力の差は比べるまでもなく、
>>1は泣き顔を歪めて目を閉じた。

あれほどオレに何かを焼き付けた赤い唇が、
苦しげに戦慄いて泣き声を漏らす。

どうしたら泣き止んでくれるのかが解らない。
何を、どう告げれば良いのか、解らない。

オレが人間ではないから、
こんなにも、オレとお前はうまく噛み合わないのだろうか。


「……っ ピッコロさ、ん、わかんねーのに…っ、俺が我慢しきれ、ねーから っ」
「>>1」
「ごめん …っ …、  ピッコロさんやさしーから…、 ……」
「ちがう、……違うんだ、」

しゃくり上げる>>1の頬を撫でる。どうしたら良いんだ。
次から次に零れる涙が手を濡らす。

「ごめん …っ  ピッコロさん …  ッ、」
「オレは……」

「ごめ、 …好きになってごめん、 」


278 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 04:06:11.79 ID:JprXKV.o Be:
>>1が泣くところを見たのは初めてだった。
好きになってごめん、と、震える小さな声が呟いて、

もしもオレが人間の男だったのならば、
どうすれば良いのか、解ったのだろう。
阿呆のように呆然と立ちすくんでなぞいずにすんだのだろう。

どうしたら、良いのか、


オレから逃げようと身を捩る>>1を、
必死に引き止めた。

今、離してはいけないと、
何も解らないオレだがそれだけは解る。


282 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/09/25(木) 04:17:19.75 ID:JprXKV.o Be:
「いって ッ」

力の差に気を付けてはいたつもりだったのに、
弾けるような悲鳴が上がり、
慌てて力を抜く。

オレと>>1との差が、悲しい。

腕を掴んでいた手を離して、
背を抱き寄せた。

ひ、と息を呑む音。

出来るだけそうっと、包み込んだ。
>>1がじっと身を硬くして、それから、嗚咽を漏らす。

「ッ …… も …やめ … やめろ 、よ ……」
「>>1」
「離せよー …、 も …がまん、出来なくなっちまうだろ …っ」

伝えるべき言葉を捜す。伝えるべき思いを探す。
ぐしゃぐしゃに丸めて、みすぼらしい箱に閉じ込めていた思いを、
丹念に広げて、>>1に差し出そうと、……思った。



                       つづく。

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