382 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:11:47.05 ID:Fzj72h2o Be:
>>380
この荒れた林を抜ければ合戦場だ。
戦わなければならない、まだ俺は歩けるから。
まだ俺の腕は2本、ついているから。
疲れ切った足がもつれてその場に倒れ伏せる。
呼吸がし辛くて、視界が安定しない。
だが戻らなければならない、戦わなければならない。
ガクガクと肘が揺れる手を地面について、体を起こそうとした。
「……ッ、」
頭が、押さえられている。
気配も足音もなかった。敵か。ここで死ぬのか、戦いの場でもないここで。
地面に落とした手を滑らせて腰へ向かわせようとしたが、
ふっと頭が軽くなり、
同時に今度は手が踏みつけられた。
もう俺は半ば諦めていたが、せめて戦場で死にたかった、と思う。
「どこへいくんだ」
声に顔を上げた。
385 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:17:07.90 ID:Fzj72h2o Be:
藍に染め上げられた飾り紐の目立つ甲冑。
緑の肌。
敵軍の武将の1人が俺を見下ろしていた。
何故こんな所に、と体が固くなる、だが、
喜ばしいことかも知れない。
名高いこの武将に討ち取られるのならば。
「戦地に戻るのか」
「ああ」
「戻るのならば何故逃げた」
逃げた訳ではない、命令だったんだ。
だが口を利くのも面倒で、黙ったままでいる。
「……そのまま逃げてしまえばよかったのに」
387 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:22:13.29 ID:Fzj72h2o Be:
「そんな訳にはいかねー、戦って死ぬのが俺の役割だ」
そう応えると、緑の肌を持つ敵将は、微かに笑った。
「ただでさえ短い命を、お前らは本当に粗末にするな」
「あんたも同じだ」
「……オレは死なぬ。力がある」
確かにそうなのかも知れない。
この敵将の気味が悪いほどの武は余りに高名で、
俺達は間違いなく負けるだろうと、みな口には出さないが覚悟している。
嬉々として戦から外れた、俺が逃がしたあの男をバカにしていたが、
あいつはきっと賢いんだろう。
俺はバカだからダメだ。みな、バカなんだ。
俺の手を踏みつけていた足が、ゆっくりと離れていく。
「……戻れば死ぬぞ。オレが、お前らを殲滅する」
「うん」
「それでも戻るのか」
「だってそれが俺に与えられた人生だ」
388 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:28:40.96 ID:Fzj72h2o Be:
不意に敵将の表情が歪み、赤い目が、
……俺の勘違いかも知れないが、悲しげに揺らいだ。
「お前には生きていて欲しい」
何を言ってるんだ、と思う間も無く、
俺のやすっぺえ鎧と敵将の上等な甲冑が、ギシっと擦れて鳴る。
抱え上げられた浮翌遊感に目を見開く俺を一瞥して、
敵将はスタスタと林の奥へと向かって行った。
「え、なに、」
ビックリしすぎてまともに喋ることも出来ない俺を傍に下ろし、
敵将が、ガシャっと音を立てて一本の木の下に座り込む。
ほど近い場所から合戦のざわめきが聞こえてくる。
俺はあそこに戻らなければいけない。
「え、何してんの」
敵将が、ぎちぎちと音を立てて甲を外していく。
脱げないらしいソレにイラだったみたいに緑の手が薙いで、
ビチッと弾けるような音と共に紐が千切れ、鎧が外れていく。
390 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:37:45.79 ID:Fzj72h2o Be:
「お前たちは弱いし、忘れっぽい。それに短命だ」
「え」
甲冑の破片を放る度にどさっと地面が悲鳴を上げる。
程なく胴着姿になった敵将が、
ふと俺を見上げ、兜の下に巻いていたさらしを解いた。
人ならぬものと示す2本の触覚。
だが恐怖は特に感じない。
甲冑と共に武器も捨てた敵将を、討ち取るかっこうのチャンスなのに、
何故かもやもやして手が出せずにいる。
そんな俺に敵将は手を伸ばして、
「思い出せないか」
392 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:41:31.01 ID:Fzj72h2o Be:
囁きながら、やすっぺえ俺の鎧を解いていく。
それは簡単な作業だ。
「……思い出せないならそれでもいい」
本当は覚えている。
ガキの頃、俺はこの人のことが好きだった。
今と変わらない長身、今と変わらない寂しげな顔立ち。
胸に抱き締められる。
先ほどはお互いの鎧に阻まれて感じなかった体温。
394 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/31(日) 14:48:57.35 ID:Fzj72h2o Be:
筋肉が張り詰めているのに柔らかな印象の体を、
咄嗟に抱き締めてしまった。
腕の中の敵将が、……息を呑む。
「思い出し…」
「何のこと」
「……」
知らない。覚えていない。どうして話し掛けて来るんだ、どうして掻き乱す。
あなたの軍に負けて死ぬのならばそれで良いと思っていたのに。
16のあの時、
西と東に分かれたときから、あなたのことはもう諦めるつもりでいたのに。
「思い出せぬなら構わん……、もう少しだけ、こうしていてくれ」
「……」
「そして、どこか遠くへ逃げてくれ」
「……」
同胞を星の数ほど手に掛けてきた敵将を、
地面に押し倒す。
395 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] Date:2008/08/31(日) 14:51:35.09 ID:Fzj72h2o Be:
後略。こんなノリでした。
いや俺の夢の中ではもうちょっとのんびりしてたけど…。ほのぼのというか。