368 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 20:53:01.51 ID:4H7aqSso Be:
ふわふわとした手触りのうさぎをぎこちなく撫でる。
オレがあいつのことを考えていないのは、
きっと瞑想しているときくらいだろう。
その時も、恐らく、思考に上らぬよう頭を無にしている間ですら、
オレの身にも心にも、あいつは染み付いてしまっている。
まだか。
時計を眺めながら己がそわそわとしていることが照れくさい。
ふと気付いて、にぎやかに声を上げているテレビのスイッチを切った。
テレビを見るようになったこと、
あいつが買ってくるマンガ雑誌を眺めるようになったこと、
このうさぎのぬいぐるみに妙な愛着を感じること。
良い変化なのか解らないが、
きっとあいつはそんなオレの変化を喜ぶのだろうと思う。
だが、恥ずかしいから、もう少し隠しておこう。
うさぎへの愛着はバレているだろうが。
370 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 20:56:30.78 ID:4H7aqSso Be:
ピンク色の、妙にふわふわとした、やわらかなうさぎ。
本物のうさぎがピンク色でも、
こんなに芯のない柔らかな生き物でもないことは、
森に荒野に暮らしたこともあるオレは知っている。
うさぎ、という生き物の、かわいらしいところだけ集めて、
生き物の生臭さ、醜さを取っ払い、
甘いイメージだけを詰め込んだこのぬいぐるみ。
きっと、人間の女にならば似合うのだろう。
馬鹿馬鹿しいと思われるだろうが、
この、妙に甘ったるい、かわいいだけの、
何の役にも立たんうさぎのぬいぐるみ。
>>1がくれた、このぬいぐるみ。
こいつを通せば、少し素直になれるのだ。
371 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 20:58:51.57 ID:4H7aqSso Be:
オレの中にある、甘ったるい部分。
きっと、元々あったのではないのだろう。
>>1との暮らしが生み出した、オレの甘さ。
オレはそれを認めざるを得ないほど気付いているが、
表現し、外に出すことは未だ恥ずかしい。
>>1がこのうさぎを、オレにくれた。
似合うと言って。
あまったるいうさぎ。
オレの中の、直視したくないほどの甘い部分。
>>1が似合うと言ってよこしたこのうさぎを通してならば、
少しだけ、許される気が、するのだ。
372 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 21:02:29.25 ID:4H7aqSso Be:
「たっだいまー」
玄関からいつも通りの物音がして、
いつも通りに声が響く。
>>1の声だ。
じん、と、それだけで胸から喜びが湧き出してくる。
うれしい。
たかが弱ッちい人間が1人、傍に来ただけで、
こんなにも嬉しくてたまらない。
そんな自分の甘さ弱さにうんざりし、恥ずかしく思う部分も残っているが、
「おかえり」
それでもやはり嬉しくて堪らない。
373 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 21:05:58.41 ID:4H7aqSso Be:
いそいそと近づいて来る>>1の服から、僅かに漂う煙草の匂い。
それが余り好きではないとオレが何気なく言ってしまってから、
家では殆ど吸わなくなった。
あの頃は、オレの中の甘さが育っていなかった……
もしくはオレがまだ気付いていなかったから、
それがどれだけ嬉しいことなのか、解らなかったけれど。
大事にされている。
「少し遅かったな」
「さーせん、寂しかった?」
「……」
375 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 21:13:06.41 ID:4H7aqSso Be:
やわらかなうさぎを持ち上げて、
ふにゃふにゃとした桃色の手を摘み上げ、
ぱふぱふと>>1の頬に触れさせた。
うさぎに隠されて見えないが、>>1が楽しげに笑う気配が伝わる。
「少しだけ寂しかった、……慰めてくれ」
「うさたんったらwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
はしゃいだ声。
思い切り抱き締められて、そのまま床に引き倒される。
オレとの間でうさぎが潰れて、慌てて腕を持ち上げる。
「こら、うさぎが……」
オレの言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、
でれでれと笑いながら>>1がオレの帯に手をかけた。
「こら……」
376 ◆PICorehgzw [sage] Date:2008/08/26(火) 21:13:18.70 ID:4H7aqSso Be:
しゅるりと帯が腰元から抜けてゆく音に顔が熱くなる。
窘める言葉を繰り返しながらも、オレはそれを阻もうとはしない。
仕方ない、うさぎで両手がふさがっているのだから。
「ピッコロさん、すっげー好き。大好き」
囁かれる言葉に、幸せな気持ちが胸からとろけて全身に広がる。
もう抵抗する気も失せた。いや最初からきっと、ない。
仕方ない、オレもお前のことが好きなのだから。
「オレもだ……」
うさぎで顔を隠しながら囁いた言葉に、
オレからは見えないが、きっと、
>>1も幸せそうに笑っていることだろう。
おしまい。