861 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] Date:2008/07/17(木) 19:12:49.00 ID:T0HgVsI0 Be:
漂う意識が、自身に纏う温かさに絆されている。心地良い。
好ましいと感じさせられる果物の匂いに包まれて、緩やかに覚醒した。
すう、すう、と規則正しい空気の通る音、背に回された熱。
これらをまず知覚し、今までに経験のない理解不可能な現状に激しい焦りが生まれる。
深層の何かに急かされ目を開ける。
眼前には>>706の安らかな寝顔。
しょうげきで からだが うごかない
んん……と唸りながら身じろぎする>>706に心臓が竦む。
腕が持ち上がり、頭を抱えられる。迫る>>706。依然身体は動かない。何故だ。
ちゅ、という羞恥をいざなう小さな音に心拍数が上昇させられる。
額を熱源とし、侵蝕していくかのように広がる。
何をされたのか分からない。分かりたくはない。
思い至った予測を即座に切り捨てた。熱が全身を巡る。
現状より、何より、嫌悪をいだいていない自身に目眩がした。
目を醒ました>>706に、俺は第一声に何と言えばいいのだろう、という
無駄な懊悩に、奴が奇声を上げて飛び起きるまで思考を支配され続けた。
眠っていた>>706は、普段とは違う側面を曝け出していた。
思えば、これ程までにまじまじと注視したことはなかったかもしれない。
黙っていればまともなのか、と混乱している頭の片隅で思った。
目覚めてからの>>706は聞くに耐えない大声で何事かを喚き続けているが、俺は生憎と
騒音を聞く耳など持ち合わせてはいない。常の如く聞き流すよう努める。
奴は余りにもいつも通りで、何故だか気張っていた自分をひどく罵りたくなった。
そして堂々巡りをするばかりの思考を手放した。
目が覚めてまず何を言うかなど。ため息をつく。
「……おはよう。」
「うぇっ?!!お、おおお、おはっおはようごご、ございますっっ!!!」
「……この状態はどういう事なのか、簡潔に説明しろ。それと喚くな。」
「あ、あー、うう……えっと、その、」
身体を起こして立ち上がり、奴に背を向けて身だしなみをを整える。
>>706は大分落ち着きを取り戻した様子で事情を話し始めた。
吃音で聞き取り辛い。理路整然としておらず、加えて鈍い。
以前ならば苛々として尻尾ではたき倒していただろう。……以前なら?
なんだこの変化は
再び展望の見えない思考に陥りそうになり、それを振り払うため
現実に、>>706に目を向けた。
「その……酔ってるなんて気付かなくて、ええと、かっ顔色なんて全然フツーだったし!」
「そっそれで、あの、先生が寝入る直前の、……覚えてる、っすか……?」
こっちに背中を向けたまま。返事はない。
ふと降りてきた静寂に、不安で鼓動が早まった。
先生が振り返る。
焦燥に駆られているような、いつもなら絶対に見せない弱った色を帯びた眼差し。
どこか縋りつくような――。
そこから先はよく覚えてない。自制心を遠くへ投げ捨てたって事だけは分かってる……。
誤魔化しようもなく「それ」だった。
振り返ると、>>706は俺の肩に片手を置き、もう一方の手を頬に添えた。
奴の顔は眼前に迫っていた。
>>706の目を見つめると、一切の行動が制限されてしまう。
求める激情が垣間見えていた。それを渇望する思いが溢れ出る。
拒絶しなければ、と警鐘の鳴り響く心の裡を制したこの感情はなんだ。
唇が触れ合う。熱は一旦離れ、再び近付いた。
>>706の舌が歯列を割り、口腔に、奥へと迫り来る。
己の小さな一瞬の震えを悟られてはいないだろうか。
体感する。緩やかに動く>>706の舌、>>706の息遣い、熱を持った>>706の身体。
時折境界が曖昧になる。それでも確かに>>706を感じていた。
そして唐突に、これは生きている、と理解した。
186 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] Date:2008/07/20(日) 20:52:58.51 ID:YsmtvF.0 Be:
擬似的な、交際と呼べるのか怪しい現在の状態になってから、二月が経過した。
何かの謀略かと勘繰ってしまう程の巧みさで、>>706は俺を誘い出す事に成功している。
苛立つが、豊富な甘味類の知識を仕入れ、現物を入手してくる奴には従わざるを得ないだろう。
釣られている自覚は一応、ある。
そして今日は、数多の菓子類と実家から送られて来たというさくらんぼを口実に>>706の家へ。
自分の家なのだから寛いでいろ、と最終的には命令を下した程
当初の>>706は落ち着きがなかったが、最近はいくらか余裕が出て来ただろうか。
好きだという曲をかけ、聴き流しながら俺に話しかける。
ゆっくりと菓子を味わいつつ、時折相槌を打つ。問われれば答える。
この緩やかな時間が好きなのだと、そう言った>>706に素直に同意する日は来るのだろうか。
ケーキを食べ終え、目を通さねばならない最新の参考書を傾けつつ、そんな事をつらつらと考えていた。
俺が思考している間、>>706が口を挟んでくる事はなくなった。評価に値する変化だ。
奴は奴で自由にしており、歌を口ずさんでいる様が伺える。
――それは 孤独という名の 重い鎖だったんです 自ら上手に 体に巻き付けたんです
何かに引っかかりを覚え、無意識に>>706の歌声に耳を傾けていた。
――この震えた喉に 本音を尋ねたら 声も震えていて ちゃんと聞こえなかった
――孤独を 望んだフリをしていた 手の温もりはちゃんと知っていた
――その手に触れて いつか離れる時が来るのが恐かった
居ても立ってもいられない焦燥に、鼓動が早められる。
そして、理由も解らずいたたまれなくなる。
急ぎ今にも止めなければいけない、という心理に突き動かされそうになるが
何故、と自問し答えが見えずに硬直する。
>>706の、機嫌の良さそうな横顔を、じっと見つめ続ける事しか出来ない。
――奪い合ったり 騙し合ったり 些細な事で 殺し合ったり
――触れてみれば 離れたり 恐くなったり
――だけど、それでも、
言うな……。
混乱を来す俺の精神が、絶望に似た、上昇か下降か判断のつかない落差に陥る予感がする。
――人に触れていたいと 願うヒトが好きだ
――何度となく すがりついて 傷ついて
思考が停止した。
これは、俺の――。
――誰も居なくて 一人なら
――生きる意味 ひとつもない あぁ
バキバキッ グシャッ
「っっうええええええええええええおおおおおっっっっ???!!!!!」
>>706のいつもの絶叫で、はっと思考を取り戻した。
手にはバチバチと電流を爆ぜさせている金属塊。元、CDプレーヤー……。
「えええええええぇぇぇぇぇなんでええええええええっっっ?????」
内心で溜め息、舌打ちは外に漏れ出た。
地に向けてスーパーノヴァを放ちそうになるのを何とか抑え込む。
心を落ち着け、動揺を霧散させるように努める。一度瞼を閉じ、そして開く。
「……わ、るかった…………」
「先生が謝罪の言葉??!!!なんか全然じょうきょうがはあくできないっ!!!!!」
戦き喚き散らしている>>706に償いをしなければならないと思い至り、頭を抱えたくなった。
396 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] Date:2008/07/22(火) 08:08:31.64 ID:fueUXOQ0 Be:
「っ、 ぅん ん……っ ! はっ……ぁあ、 あ、 っう、 」
願望から来る幻聴だったのかもしれない、と後からそう思った。
呼吸の合間に色の滲んでいるような先生の声を耳が知覚し、唐突に我を失っていた自分に気が付いた。
冷や汗が吹き出る。
濡れている唇。
半開きの口から、舌先がちらりと揺らめいているのが見える。
常態よりも上がった息。それにシンクロするように舌は小さく上下している。
本来は他意もなく意図しないこの誘惑は、俺からすると猥雑な考えを幻視させる。
その、普段ならば垣間見る事すら出来ない姿に目を見開く。
驚きと動揺と色々な感情で目が回りそうだったが、注視せずにはいられない。
それでも、並々ならぬ労力を消費し、何とか視線を引き剥がした。
「!!クウラ先生!うあ……俺っ……、あ、すっ、すみ、ま、せん……っ!」
慌てて先生に触れていた手を放す。
膝の上に強く握った拳を置き、視線をそこにやる。
先生とこんな事やこの先をしたいなんて、考えた事すらなかった。
唯々尽くしたい、良く思って欲しいと、単純に願っていただけだ。
呆気無く理性を手放してしまった自分に愕然とした。
謝らなきゃ謝らなきゃ謝らなきゃ……
謝罪してそれで解決するとは思わない。でも、ただその言葉だけが頭を巡っていた。
生物準備室で先生の首を締め上げた時の事が思い起こされた。
突然渦中から放り出され、束縛がなくなった事に不安定さを感じた。
余りにも唐突で驚いたが、見つめた先の>>706は比較対照にすらならない程に狼狽していた。
かける言葉は浮かばない。
俯いて戦慄く姿から、深層に何かを得た。正体に思い至る事は出来なかった。
それが何なのか、俺はまだ知らない。
あれ程強く感じていた接触に対する生理的嫌悪はどうしたのだろうか、と
痛々しくうろたえている>>706を前にして、いくつかの可能性を思い描きながら思考に耽った。
続きへ・・・。