調律師と庭師と七夕

296 ◆hAmnyPalgs [sage] Date:2008/07/07(月) 06:25:55.29 ID:DAeQUVAo Be:
〜〜調律師と庭師と七夕〜〜
ビーデル「庭師さん、庭師さん」
俺「なんでがすか、奥様」
ビーデル「今日は七夕のゆうべにピッコロさんも招待するの」
俺「!」
ビーデル「いいと思われる笹を見繕って切ってきてもらえる?」
俺「しょ、承知したでがす」


俺「先生が、調律の先生が来る」
俺「とびっきりいろつやのいい笹を探さんば」


選びに選んだ笹を抱えて、庭師はテラスに急ぐ。
七夕のゆうべ、そんなものに自分は勿論参加出来るわけはないけれど、
あの美しい緑の指が、自分の選んだ美しい笹に触れるのだろうか、
きれいな深い色の爪を持つ指が手ずから短冊をつるすだろうか、

それを思い浮かべるだけで胸が詰まる。



302 ◆hAmnyPalgs [sage] Date:2008/07/07(月) 06:33:56.17 ID:DAeQUVAo Be:

星は瞬き、空は暗く。
七夕の夜に、テラスからはさざなみのように談笑の賑わいが聞こえてくる。
物置小屋から出た庭師は、必死に耳を澄ましてその談笑から
焦がれてやまぬあの落ち着いた声を探そうとした、
だが庭師の良くない耳には、解らない。

一歩、二歩、
少しずついざなわれるようにテラスへと近づいてしまう。


他の客「あらいやだわ、だあれ、あの暗がりに立つ小汚いひとは」
ピッコロ「……、」
ビーデル「あら、あら、うちの庭師ですわ」
庭師「……し、失礼したでがす、」
悟飯「まだ帰ってなかったのかい、早くお帰り」
庭師「失礼……、したでがす」

かああと庭師の顔が火照り、全身がおこりのように震えた。
さわさわと笹が夜風に揺れる、そんな音もなんの慰めにもならない。


304 ◆hAmnyPalgs [sage] Date:2008/07/07(月) 06:38:55.66 ID:DAeQUVAo Be:
客「まあみっともないみなりですこと」
ビーデル「ごめんなさいね」

今すぐこの場を立ち去りたい、そう心底から願う。
ここから消えてなくなってしまえるならいっそそうしたいと。
だが足がいてついたように動かない、こんなに体は羞恥で熱いのに。

ピッコロ「オレは、そうは思わない」

テラスの華やかな人々が、皆一斉にピッコロを見た。
調律師は少し困ったようにその視線を受け止め、それからゆったりと首を傾げる。
余り派手ではない、それでも堂々とした体躯のその人が着れば
目を惹くぴったりとしたドレスを纏う腰に手を当て、
もう一度口を開いた。

ピッコロ「汚れているのは」
ピッコロ「一所懸命労働をした証だろう」
ピッコロ「それがみっともないとは、オレは思わない」



305 ◆hAmnyPalgs [sage] Date:2008/07/07(月) 06:42:35.64 ID:DAeQUVAo Be:

体がふわりと軽くなる、心はもっと軽くなる。
嗚呼そんな、そんなことを言われれば。

俺「し……失礼したでがす、」

庭師はひょこんと華麗ではないお辞儀をして、
夢の中で走る雲の上をすすむような心持で、
それでも出来るだけ早くそこを離れた。

俺「ああおりひめさま、ひこぼしさま、」
俺「もしもねがいがかなうなら、」
俺「あなたがたのようになりたいとは言わない」
俺「ただ、ただ、あのひとを見つめていさせてくだせえ、」
俺「俺が望んでいいのはきっとそれくらいでがす、それでいい」





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