〜〜調律師と庭師の恋〜〜 4,家での出来事

1:〜〜調律師と庭師の恋〜〜 1,始まり
2:〜〜調教師と庭師の恋〜〜 2,再会
3:〜〜調律師と庭師の恋〜〜 3,調律師の家へ


842 : ◆hAmnyPalgs [sage]:2008/07/04(金) 19:38:28.41 ID:sypNo2.o
-前回までのあらすじ-
館に調律師が訪れる度にその姿を目で追ってしまっていた庭師。
ですが庭師にはそんな自分の気持ちが良く解りませんでした。
ある日奥様に命じられ、良いパンジィを探しに園芸店へ訪れた庭師は、
そこで偶然にも調律師に出会います。
育てるのが少し難しい花に興味を惹かれていた調律師に、
庭師は言いました。「俺が手伝いばするでがす」、と。

調律師の自宅、小さな庭先で庭師は作業を始めます。
手伝うことがないと知った調律師はふと自宅の中へ消え、
そうして、
ピアノの音がきれいだと語った庭師のために、
庭師のためだけの旋律を奏でてくれました。


844 : ◆hAmnyPalgs [sage]:2008/07/04(金) 19:48:24.59 ID:sypNo2.o
庭師に音楽を愛でる気質があったわけではない。
ただキレイな音だと、そう思ったのは真実だった。そして今、
そのキレイな音はただ庭師のためだけに、
美しい緑の指先から生み出されている。

俺「なんてきれーか音だろうか」
俺「こんな音を生み出せる、あのきれーか手は」
俺「なんてすっばらしいんだろうか」

聞き惚れ、手の動きを止めてしまっていた庭師は、
はたりとそれに気付くと慌てて作業を続ける。
土を盛る己の汚い指先を見る。

俺「あの人と俺は、なんて違うんだろうか」

それが、悲しい、と庭師は思った。



845 : ◆hAmnyPalgs [sage]:2008/07/04(金) 19:54:30.26 ID:sypNo2.o
俺「あの、」
俺「あの……花ば、ちゃーんと、移したでがす」
ピッコロ「ああ、」

大きな窓から覗き込んだ先には、
余りもののない部屋、そして平たいピアノ。
あの館にある立派なグランドピアノではない、茶みがかったそれの上で
庭師が声を掛けるまで
伸びやかに指が踊っていた。
美しい、と庭師は思う。
それは美しすぎた。

ピッコロ「お前ばかり働かせてすまないな」
俺「いいえ、あの、また明日、来るでがす」
ピッコロ「待て」

しどろもどろと言葉を紡ぐ庭師が、そそくさと帰ろうとした。
驚いたように声を掛けた調律師が、
立ち上がって窓の桟に手を掛ける。

ピッコロ「上がっていけ、飲み物くらい出そう」



847 : ◆hAmnyPalgs [sage]:2008/07/04(金) 20:04:52.31 ID:sypNo2.o
遠慮と促しの押し問答の末、
結局庭師はピッコロの家に上がりこんだ。
自分の服が、体が、どれだけみすぼらしいか、
小さく小さくなって椅子に座りながら、庭師は煩悶した。

ピッコロ「誰かを招くことなぞ殆どないのでな、」
ピッコロ「こんなものですまないが」

トレイを片手に部屋に入って来た調律師。
テーブルに置かれたグラスの中には、香りと少しの甘みのついた水が入っていた。
氷が入った、ひやりと冷たいそれは庭師の喉にするりとなんの抵抗も無く入っていく。

2人はあの花について気をつけることを話し合い、
庭師が勝手にこの家の庭に訪れて世話をすることを認め、
そして調律師が何か礼を、と言っては庭師が断った。
三番目の話し合いが、一番長く続いただろう。

ピッコロ「おかしなヤツだ」

不思議そうに呟く調律師の、眼差しすらきれいだと庭師は思った。



848 : ◆hAmnyPalgs [sage]:2008/07/04(金) 20:10:11.96 ID:sypNo2.o
ピッコロ「何も、いらないのか?」
俺「何も、いらないでがす」
ピッコロ「だがそれではあんまりにも」

もう何度目になるだろうか。
再び調律師が何がしかの礼をしたいと言い出し、
庭師はまた断った。
だが、今度は、断りの言葉の後に「だけんど」と続けられ、

俺「もし、まんがいちでがすが、調律の先生がそれじゃあ納得できんとおっしゃるなら」
ピッコロ「ああ」
俺「また、ピアノを」
ピッコロ「?」
俺「ピアノを、弾いてくれんでがしょうか、」

俺のために。そう続けたかった言葉を、庭師は飲み込んだ。
そして、そんなことを考えてしまった自分を恥じ入った。
良く日に焼けた肌が熱く火照る。



849 : ◆hAmnyPalgs [sage]:2008/07/04(金) 20:13:50.96 ID:sypNo2.o
ピッコロ「そんなことでいいのか?」
俺「あの、」
俺「あの、」
俺「……それが、いいんでがす」

庭師はもう調律師の方を見ることすらできない。
からんと氷が水に溶けてゆくのを見詰める。
フッ、と笑う気配が伝わった。

ピッコロ「それくらいなら、いつだって構わん」

庭師は目を上げる。調律師は、穏やかに。
ほんの少し、くすぐったそうに、笑っていた。



                 つづく

次:〜〜調律師と庭師の恋〜〜 5,家に通う

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