激しい雨の音が、まだ聞こえる
これが、梅雨…というヤツなのでしょうか
679「雨が一時的にでも止んだら、天界へ帰りましょう、神様」
デンデ「…はい」
そんなことを言われると、雨が止まなければいいと思ってしまう
そんなぼくは、神様失格でしょうか
だって、きっと帰ったら、もう二度とここへ来ることなどありません
…帰りたく、ないなぁ
679「神様?」
デンデ「はい?」
679「なぜ、帰ることを拒みますか?」
デンデ「…えっと」
胸の中でだけ囁いたつもりだった言葉は、どうやら口にまで出てたみたいです
…もういいです
今のぼくは、神じゃありません
デンデです
今日だけは、今だけは、自分に素直でありたいとおもいます。
532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 00:12:55.59 ID:vYRfmgDO
デンデ「帰ったら、ぼくは地球を見守る神です」
679「帰らなくても帰っても、神様は神様です」
デンデ「そういう意味じゃなくてー…」
デンデ「…」
679「神様?」
デンデ「…」
あの、意味の存在しないキスの後、679さんは普段通りに戻ってしまいました
無表情で、ぼくを神様と呼ぶ
なんてことはない、いつも通りで普段通りの679さんのはずです
なのに、得も言えぬ寂しさがぼくの胸を満たしています
679「神様?」
デンデ「ねえ」
座って、ぼくを見ていた679さんに正面から近づき、顔を寄せてみる
679さんは微動もせず、冷静な機械の目でぼくを見ていました
さっきまでの、暖かな笑みを浮かべた目ではなく、冷静な機械の目
533 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 00:24:10.09 ID:vYRfmgDO
デンデ「ぼくのこと、好きですか?」
679「神様、質問の意図が分かりません」
デンデ「意図なんかありませんよ、ただぼくのことを好きか嫌いかって聞いたんです」
679「…好意に値します、神様」
デンデ「じゃあ」
デンデ「デンデのことは?」
679さんの機械の目に、少しだけ困惑が見えた気がしました
この人はどうせまた、理解不能とか意図が分かりませんとか言うんでしょう
679「理解不能」
ほらね
デンデ「679さんが好きなのは、好意に値するのは、神としてのぼくですか?」
デンデ「それとも」
デンデ「デンデとして、個人としてのぼくですか?」
679「意味が理解できません」
679「神様は神様であり、ほかの何者でもありません」
デンデ「…」
679「…」
デンデ「かみさま…ですか」
胸が少し痛む
しゅくしゅくと、胸が泣いているような痛み
679さんは、ぼくを神様と呼び、神様以外の何者でもないと言った
それは、679さんが、ぼくを神としてしか見ていないという事でしょう
535 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 00:33:42.87 ID:vYRfmgDO
デンデ「…」
679「神様?」
デンデ「679さんは、ぼくを神としてしか見てないんですね?」
デンデ「神だから、好意に値するんですね?」
あぁ、また
また、ぼくの言葉に棘が生えている
言ってるぼくがこんなに痛いんです、その言葉をぶつけられている679さんだって痛いに決まってます
ぼくは神なのに
理不尽な怒りを、679さんにぶつけてしまっている…
ぼくはだめな神様です
理不尽で、理由もわからない怒りを、679さんにぶつけて
そして、また泣きそうになっている
ぼくはどうして、どうして怒っているのでしょうか
何に怒っているのでしょうか
679さんに怒っている?
神としてしか、ぼくを見てくれていない679さんに怒りを感じている?
それは、何故?
539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 00:51:40.63 ID:vYRfmgDO
679「…」
デンデ「…」
679「神様」
デンデ「…はい」
ほんとは、神様と呼ばれても返事をしたくなかった
でも、679さんは悪くない
ぼくが勝手に怒っているだけなのに、八つ当たりはいけません
679「…デンデ」
デンデ「!?」
心臓が止まるかと思いました
心の中を読まれたのかと思いました
679「神…いえ、デンデは、私が嫌いですか?」
デンデ「いいえ…嫌いじゃないです」
679「嫌いではない、ですか」
デンデ「…」
679さんが、また少し考え込む
考え込んでいるとき特有の、微かな機械音
普段の音とは違う、少しだけテンポの早い音
679「…理解不能」
679「『嫌いではない』本来なら、喜ぶべき言葉のはずです」
679「か…デンデは、私を嫌ってはいない」
679「なのに」
679さんの言葉が詰まる
その顔は、やはり無表情でしたが
何かを苦悶していることは、伝わってきました
540 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 01:05:03.53 ID:vYRfmgDO
679「なのに今の私には…『哀』の信号が流れます」
679「理解…不能」
かっくりと頭を垂れてしまう679さん
それは、ふだん、まるで軍人のように姿勢のいい彼からは想像もつかない姿でした
デンデ「679さん…」
679「デンデ…」
679「わからない、電気信号がうるさい」
679「理解不能理解不能理解不能理解不能」
頭を抱え、壊れたレコードプレイヤーのようになんども同じ言葉が、その口から紡がれる
しかし
その声は確かに、苦悶している人の声でした
デンデ「…」
彼は苦しんでいる
彼を苦しめているのは、誰?
541 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 01:16:28.65 ID:vYRfmgDO
それは間違いなく、ぼくなのでしょう
神としてでも、彼はぼくを好きだと言ってくれた
それだけで十分なはずなのに
ぼくは理不尽にも怒りを感じ、それを彼にぶつけた
彼は、それに苦しめられている?
ベッドに腰掛け頭を抱えている彼は、あまりに小さく見えた
まるで…幼子のように、見えました
デンデ「…」
679「理解不能理解不能理解不能理解不能」
679さんの身体から、かたかたと音がする
モーターか何かがフル回転してる音もする
きしきしと鋼が軋む音もする
そして…
ぴたりと音が止まり、そのままぱたりと機械の身体は倒れ込む
679「…」
542 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 01:30:11.72 ID:vYRfmgDO
デンデ「ろ…679さん!?」
糸の切れた操り人形のように、動かない679さん
眉間に深いしわを残し、目を閉ざした苦悶の表情のまま、倒れて動かない
あわてて触れたその身体は、火のように熱かった
デンデ「ど、どうしたら…」
679さんが壊れてしまった?
えも言えぬ恐怖がぼくを襲う
腕や脚はふるえ、立っていることもままならない
ぼくは、ただただ、その熱すぎる手を握り、苦悶を残した表情を眺めていることしかできなかった
怖かった
ぼくが悩ませたから、苦しませたから壊れた?
もう二度と
679さんは声を聞かせてくれない?
ぼくに触れてくれない?
笑いかけてくれない?
デンデ「679さんっ…しんじゃ嫌です…っ」
デンデ「だめなんですっ…しんじゃだめ…」
543 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 01:41:11.34 ID:vYRfmgDO
あんなに熱かった手が、触っているのもつらいほどに冷たくなる
それはまるで…
デンデ「!!」
今ほど、自分の能力を無能だと思ったことはありませんでした
人の傷は癒せても、679さんを癒すことはできない
いまのぼくには、それじゃあ意味がないんです
679さんを癒せなきゃ、何の意味もないんです
デンデ「…」
目の奥がジンと痛み、こらえようのない涙があふれ出す
声にならない声が、嗚咽となって止まらない
デンデ「ひっく…ぇっ…く…」
冷たい手を握りしめ、押さえることのできない感情に、ぼくは身を任せました
次から次へと溢れ出す涙、涙腺など失ってしまえばどれほど楽でしょうか
デンデ「起きて…っ…目を開けてくださいっ…ぅっ…ぼくを…呼んでください…っく…ぅう…」
願いを声にする
届くはずもない願いを、声に出さずにはいられませんでした
549 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 01:58:25.20 ID:vYRfmgDO
デンデ「目を…あけてください…っ…起きてくださいっ…ぇうぅっ…っく」
679「承知しました」
デンデ「!?」
心臓が止まるかと思いました
いえ、もしかしたら0,5秒ぐらい止まってたかもしれません
声を上げた679さんが、むくりと身体を起こし、ぼくを見る
679「おはようございます、神様」
ぼくの中を駆け巡るいろんな感情
怒り、驚き、呆れ、喜び…
とにかく、うるさいほどいろんな感情がぼくの中を駆け回りました
そして、現状を飲み込んで最後に残った感情は
デンデ「……っ!」
『喜び』でした
もう何もわかないぐらい、無我夢中で679さんに抱きつき、理由もわからないのに溢れでる涙を流しました
声を殺す]ことなく、まるで小さな子のように
服と服越しに伝わる、679さんの身体は冷たかった
けど、679さんはそこにいる
そこにいて、動いている
それだけで涙が止まりませんでした
679「神様?何故泣いているのですか?神様?」
デンデ「っ…うわあぁぁぁぁんっ!…っく…ぅう…わぁぁ」
679さんは、何も言わずに冷たい手でぼくを撫でていました
冷たいけれど、それ以外はふだんと何も変わらない手で
554 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 02:17:16.15 ID:vYRfmgDO
679「思考回路の情報量過多により、オーバーヒートを起こしておりました」
デンデ「っく…ぅ…おーばー…ひーと?」
679「はい、加熱とも呼びます」
679「機械可動により発生する熱の冷却が追いつかず、稼動不可能なまでに熱が上昇することです」
デンデ「…?」
679「データー等の保護のため、過度の加熱が起こると強制シャットダウンされます」
679「そして強制冷却し、再起動が行われます」
難しいことはよくわかりませんが、死んだわけでも壊れたわけでもなかったみたいです
冷たい胸に顔を押し当て、ぼくは涙が止まるのを待ちました
その間も、679さんの手は、優しくぼくを撫でていてくれました
679「それで、神様は何故泣いていたのでしょうか」
デンデ「……ったから…」
679「申し訳ありません、聞き取り不可能でした。再度お願いします」
デンデ「…679さんが…死んじゃったと思ったからですっ!!」
ぼくは思わず声を荒げてしまいました
勘違いしていただけでも恥ずかしいのに、それを二度も言うんですよ?
恥ずかしいに決まってます
しかし、679さんはぼくが声を荒げたことなど気にもしていない様子で、ぼくを見ていました
556 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 02:27:12.27 ID:vYRfmgDO
679「私はロボットです、死にません」
デンデ「…はい」
優しい声
もう二度と聞けないかもとさえ思った、声
涙がより一層止まらなくなります
ほんの数十分前まで感じていた理不尽な怒りなんて、どうでもよくなるほど、嬉しく思いました
679「オーバーヒートを起こすまで悩んだ結果」
679「神様への思いが、愛であると判断しました」
679「電気信号ではありません、私の判断です」
デンデ「…」
心臓が胸を破って飛び出そうでした
今にも止まるんじゃないか、破裂するんじゃないかという勢いで、心臓が早鐘を打っています
痛いぐらいです
679「神…いいえ、デンデ」
デンデ「…」
679「愛しています」
562 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 02:45:00.42 ID:vYRfmgDO
679「…」
デンデ「…」
679「…」
デンデ「ぼくも…いえ、デンデも、679さんのことが好きです。たぶん、愛だと思います」
デンデ「…神として、いけないことなのに」
679「神様、愛しています」
デンデ「今は…神と呼ばないでください…」
679「私は、神様もデンデも愛しています」
679「狂おしいほどに」
やっと少し温もりの戻ってきた胸に、きつく抱きしめられる
押しつけられた胸から聞こえる、機械音
それは、すごく安心できる音です
679「再度、おなじ質問をさせてください」
679「神様は、デンデは、私を嫌いですか?」
デンデ「…」
普段のぬくもりに戻った胸におでこを押しつけ、ぼくは聞こえている質問を無視する
679さんがどんな表情をしているのか、推測もつきませんが
今、ぼくは彼を見上げることはできません
恥ずかしいぐらい、笑みが止まらなくて
声をこらえるだけでも大変なんです
564 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 02:55:39.93 ID:vYRfmgDO
679「…」
679「繰り返します」
679「神様は、デンデは、私が嫌いですか?」
デンデ「…ぷっ」
デンデ「ふふふっ…あはははははっ」
もう、限界でした
なんだか真剣な679さんが可愛くて、可笑しくて、笑いが止まりません
679「…か、神様?」
デンデ「ふふふふ、あははははっ」
679さんの胸からおでこを離し、彼を見上げる
679さんは、やっぱりロボット故無表情でしたが、表情ではなく雰囲気から
彼がひどく困惑していることが簡単にわかりました
デンデ「言わないと、わかりませんか?」
565 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 03:12:41.43 ID:vYRfmgDO
デンデ「嫌いな人に、抱きついたりしないですよ?」
679「…」
デンデ「んー…」
困惑しきっている679さんに、ぼくからキスをしてみる
いままで、されてばっかりだったから
…かるく、唇で唇に触れるだけのキスですけど
デンデ「まだわかりませんか?」
679「…」
デンデ「…?」
679さんが黙ってしまいました
機械音は聞こえていますから、またオーバーヒートを起こしたわけではないと思います
679「…」
デンデ「あの…679さん?」
679「…加熱しそうです」
デンデ「?」
679「質問を変えます」
679「神様は、私を好きですか?」
デンデ「…」
デンデ「…神は、博愛じゃなきゃいけません」
679「…」
デンデ「でも、少なくとも、デンデはあなたを愛していると思います」
679「…もう一度お願いできますか?」
デンデ「なんでですか?」
聞き逃したわけではないはずです
なのに、何故、もう一度?
679「…」
679さんが、少しぼくから目をそらしうつむきました
聞いてはいけなかったのでしょうか
568 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/25(水) 03:26:48.32 ID:vYRfmgDO
679「…メモリーに、永久に焼き付けたく思いました」
デンデ「!」
デンデ「うふふ」
679「私が壊れても、スクラップになっても、その言葉だけは永久に私の中に残したいと、思いました」
デンデ「デンデで良いなら、何度でも」
デンデ「愛しています、679さん」
その言葉を言い終わるのが早いか、遅いか
きつく、身体を抱きしめられました
深く、きつく
679さんの肩越しに見える窓の外では、雨が上がっていました
鉛色の雲は割れて、青空が広がり、虹が架かっています
あんなにきれいな虹と青空なのに
少し、残念です
デンデ「…679さん」
679「…」
デンデ「雨は、あがってしまいました」
679「雨など…あがらなければよかったのに」
デンデ「…」
静かに腕がほどかれ、彼が立ち上がる
679「…」
679「では、天界へ帰りましょう」
デンデ「あの…さっきのって…」
679「秘密です」
〜天界へ帰りましょう
おしまい