ぼくを抱えるその腕に、少しだけ、力がこもる
そして、人の眼に似せられたガラスのレンズが、悲しみ色に満ちていた
…気がしました
679「私は、誤りました」
デンデ「…」
679「神様に喜んでいただきたく、下界にお連れしたのに」
デンデ「…」
679「神様は、泣いてしまった」
679「申し訳ありません」
ぼくは、涙があふれて止まらなくって
目に映る679さんが、滲んでしまって
言葉を発しようとしても、のどの奥で詰まってしまう
679「泣かないで…神様」
ぼくを胸にきつく抱きしめ、679さんは繰り返す
『泣かないで』と
303 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 08:14:01.08 ID:bS31OwDO
抱きしめられた胸からは、鼓動の音などしません
聞こえるのは、微かな機械音だけ
でもそれが、679さんの存在する証
デンデ「っく…な、泣かないのは…ぇぐっ…無理かも…しれません」
679「神様」
デンデ「ぅ…天界にも…ひっく…まだ帰りません…」
679「…神様」
デンデ「ぇぐっ…こ、こんな状態で…帰ったら…っく…ぽぽさんに怪しまれちゃいます…」
679「承知しました」
ぼくを胸に抱えたまま、679さんがどこかえ歩きだす
耳障りな、自分の啜り泣く声を消したくて、ぼくは瞳を閉ざして、呼吸を整えようとしてみる
…
目を閉じれば、679さんから聞こえる微かな機械音と、揺れが心地よかった
今は雨の音さえも、心地よくって、ぼくは…
305 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 08:34:13.03 ID:bS31OwDO
……
…
デンデ「ん…ぅ?」
いつの間にか、眠っていたのでしょうか
目を開いた先にあったのは、見知らぬ、真白い天井
上半身を起こし、辺りを見回すと、そこは殺風景な寂しい…部屋
人間として生活するのに最低限の物しかない、いいえ、もしかすると最低限の物もないような
寂しい、部屋
人の気配も、匂いも、無い
一人でいるには、あまりにも寂しすぎる
…夢?
考えてみたら、雨に打たれたはずなのに服は乾いていましたし
なにより、679さんがいません
たぶん夢なのでしょう
真っ白い、まるで病院のベッドのようなベッドから起き出し
辺りを改めて見てみましたが、やはり、人の気配はおろか生き物の気配さえありません
がちゃり、ばたん
扉の開く音が、どこからか聞こえました
しかし、誰かの気配はありません
308 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 08:57:55.23 ID:bS31OwDO
気配はないのに、足音が近づいてくる
この感覚は…
デンデ「679さんっ!」
ドアに振り返ると、そこには679さんが当たり前のように立っていました
普段通りの無表情で、何事もなかったかのように
デンデ「…っ」
679「!?」
デンデ「679さん…っ」
679「神様、どうしました?」
きつく、彼の機械の胴体に抱きつき
ぼくは、得も言えぬ安堵を感じていました
服と服越しに感じるぬくもり
たとえ人造の温もりでも、679さんのぬくもりであることにはかわりありません
それが、すごく安心できるぬくもりでした
679「どうしました?神様」
デンデ「…ここは?」
679「神様が来ることを望んだ、私の住居です」
デンデ「そう…ですか」
体中を安堵がはしる
力が抜けて、ぼくはぺたりと床に座りこんで、679さんを見上げました
機械故の無表情の奥に見える、かすかな表情
今、彼は、不思議そうな顔をしているみたいです
311 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 09:18:00.47 ID:bS31OwDO
デンデ「えっと、夢ですか?」
679「理解不能」
…
確かに、今のぼくの質問はよくわからなかったかもしれません
ぼく自身、どうも頭が混乱しているみたいで、うまく言葉がまとまりません
デンデ「えっと…」
679「…」
デンデ「ひぁっ!?」
うつむいて言葉を整理していると
いきなり、おでこにふれた冷たいもの
あわてて視線を上げると、679さんがぼくにボトルのミネラルウォータを差し出していました
679「どうぞ」
デンデ「…あ、ど、どうも」
ぼくがそれを受け取ると、679さんの無表情が少し緩んだ気がしました
679「落ち着いてから話しても、言葉は逃げません」
679「どうぞ、ゆっくり考えてから話してください」
デンデ「…はい」
313 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 09:35:37.77 ID:bS31OwDO
デンデ「…」
679「…」
会話のない時間
壁に掛かる飾りのない時計がたてる秒針の音と、壁や窓を叩く雨の音だけが部屋に響いていました
ボトルの蓋を開ける音さえも、大きな音のように聞こえます
どれほど、こんな時間が流れたのでしょうか
679「神様」
デンデ「あ、はい」
679「神様は、なぜ涙を流したのですか?」
デンデ「え?」
679「XXが、神様を罵倒したからですか?」
デンデ「…えっと」
我ながら、すごく間抜けかもしれませんが、ぼくには心当たりがありません
デンデ「…ぼく、あの人からばかにされましたっけ?」
679「…」
679「XXは、神様のことを『顔色の悪いガキ』と罵りました」
デンデ「あぁ、そのことですか」
デンデ「泣いたのは、それが原因じゃないです」
679「では、なぜ?」
デンデ「…わかりません」
679「?」
314 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 09:53:02.14 ID:bS31OwDO
デンデ「…」
デンデ「悔しかったんだと、思います」
679「悔しい?」
デンデ「はい、679さんが悪口言われてるのに、何もできなかった自分が」
679「理解不能」
679「XXに罵倒されたのは私です、神様が何かをする必要性はありません」
デンデ「んーっと…わかりませんかね?」
デンデ「大切な人や、親しい人が、他人にバカにされてるのを黙ってみてられる人なんて、そうそういませんよ」
679「…把握しました」
デンデ「でも、それは理由の半分にしかなりません」
679「では、残りの半分は?」
デンデ「わからないんですってば」
679「…把握しました」
デンデ「うふふ」
無表情ですが、確かに不思議そうな顔をする679さんに、ぼくは笑うだけです
だって、本当にわからないんです
316 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 10:02:27.43 ID:bS31OwDO
今は、少しだけこの時間を楽しみたいと思いました
天界から降りて、679さんの住居にくるなんて、たぶんこれから先、そんなにあることではないでしょう
いいえ、これが最初で最後かもしれません
679「神様」
デンデ「…679さん、ちょっとだけお願いがあります」
679「神様の願いなら、なんなりと」
デンデ「『神様』じゃなく、ぼくを呼んでください」
679「理解不能」
デンデ「ふふふ」
隣に座る679さんに、少しだけ寄りかかり、窓の外に目を向けました
外は、まだ雨です
天界ではまず聞くことのない、雨が地を叩く、心地よい音が聞こえます
デンデ「名前…呼んでください」
679「神様…」
デンデ「ふふふ、違いますよ」
デンデ「いまのぼくは、神じゃなくてただのデンデです」
デンデ「だから、誰かを特別扱いだってしちゃいます」
679「…神様?」
デンデ「違いますーっ、デンデです」
679「…」
317 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 10:14:45.04 ID:bS31OwDO
679「…デンデ」
デンデ「はい」
聞き慣れた優しい声に初めて呼ばれた、ぼくの名前
役職じゃなく、ぼくだけの名前
なんだか胸にくすぐったくて、不思議な気分でした
679「…理解不能」
デンデ「何がですか?」
679「私の中の電気信号です、神様の名を呼ぶだけで、快の信号が流れます」
679「それも、強く」
デンデ「…ふふふ、良いじゃないですか」
デンデ「ぼくだって、さっき言いましたよね?『泣いた理由はわからない』って」
679「はい、記憶しています」
デンデ「じゃあ、679さんだって『快の信号の理由はわからない』で、いいじゃないですか」
679「…神様?」
デンデ「デンデです」
寄りかかる肩に、おでこを押しつけ、ぼくは目を閉ざしてみる
すぐ隣にいる、人間のようで人間ではない人のぬくもり
320 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 10:28:54.83 ID:bS31OwDO
679「…理由は、わかりません」
デンデ「はい?」
いきなりの言葉に、目を開けて679さんを見ると、少しだけ微笑んでいるように見えました
それは、柔らかな笑み
679「デンデ…」
デンデ「ん…ぅ…」
679さんの手のひらが、頬に触れたかと思うと、いきなりの優しいくちづけ
嫌ではありません
むしろ、うれしいような気がします
脳髄が溶けてしまいそうな、幸福感
初めての、意味を持たないキス
322 :本日、六月二十四日は全世界的に、UFOの日です[sage]:2008/06/24(火) 10:39:46.53 ID:bS31OwDO
長い、キス
耳に届くのは、拍手のような雨の音と、くちづけの微かな濡れた音
デンデ「ぅ…ん……ん」
679「デンデ…」
今のぼくは神様なんかじゃありません
今だけはピッコロさんと同じ、人間(のような存在)に興味を持った、ただのナメック星人です
おしまい
神とロボと『帰りましょう』に続きます・・・。