デンデ「679さん!」
679「はい?」
デンデ「最近の下界は、どんなところですか?」
679「神様が普段ご覧になっていらっしゃる通りです」
デンデ「そうじゃなくて〜っ」
デンデ「ぼくは地球の神です、見るだけではなくもっと地上のことを知らないと…」
679「ならば、行きましょうか」
デンデ「え?」
679「失礼します」
デンデ「わぁっ」
いきなりでした
679さんが軽々とぼくを抱き上げて、天界の端へと歩みを進めました
まるで、さも当たり前のことのように
いったい何をする気…
その瞬間、ひゅうっと身体を包む落下による浮翌遊感
デンデ「え?え?」
679「すべては神様の望むまま」
デンデ「ーっ!?」
679さんはぼく胸に抱いたまま、やはり当たり前のことのように天界から降りた…いえ、落ちたのです
266 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 22:01:05.78 ID:gz5G8sDO
そりゃあ、ぼくだって空は飛べます
ナメック星人ですから
しかし、それはあまりに突然のことで、ぼくは、自分が空を飛べるということさえ忘れていた気がします
どれほど679さんの胸に抱かれ、滑空したのでしょうか
時間にすれば、5分足らずぐらいだと思います
679「着地点認識」
とす、っという軽い着地音
679さんは胸にぼくを抱いたまま、軽々と着地
それは、すごく当たり前のことのように
デンデ「え、あの…」
679「行きましょうか」
ぼくを地に下ろし、相変わらずの無表情で679さんが、ぼくを見下ろしていました
デンデ「…」
久しぶりの下界
それはなんだか、不思議な気分でした
背の高いビルや、目まぐるしく道を走る車
静かな天界にすっかり慣れていたぼくには、目が回りそうです…
269 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 22:24:35.60 ID:gz5G8sDO
679「神様、大丈夫ですか?」
679さんの心配そうな声
屈んで、ぼくと視線の高さを合わせてくれている679さん
ロボットではあるものの、それは確かな優しさです
きっと、ぼくをつれて下界に降りたのも、彼なりの優しさというか結論だったのでしょう…たぶん
ならば、その優しさを無碍にするわけにはいきません
デンデ「だ…だいじょうぶです…」
679「なら良いのですが…」
679「行きましょうか」
679さんに手を引かれ、久しぶりに歩く下界
誰かに手を引かれて歩くなんて、久しぶりな気がしました
都会の空気は目まぐるしいけど、679さんと手をつないで歩く道は、悪くありません
ポポさんにも無断で天界いなくなったりして、ちょっとだけ、罪悪感もありますが
今は、少しだけ、忘れてもいいですよね?
そう自分に言い聞かせ、679さんに手を引かれるまま、コンクリートの道を歩きました
274 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 22:39:23.98 ID:gz5G8sDO
デンデ「良いお天気ですねー」
679「そうですね」
デンデ「で、どこに向かっているんですか?」
679「…」
ぼくの問いかけに、679さんが少し黙ってから、ぼくに振り向きました
679「神様の、行きたいところならどこへでも」
デンデ「…」
デンデ「考えなしに、歩いてたんですか?」
679「はい」
ロボット…のはずなのに、この人はたまに抜けている気がします
ロボットって、もう少し完璧的なイメージが…
…まぁ、だから良いのかもしれませんが
デンデ「えっと…じゃあ、679さんの普段行くようなところに…」
679「…神様」
デンデ「はい?」
679「私はロボットです、普段は居住地と研究所と仕事場と神様のところにしか行きません」
デンデ「はい」
679「それでよろしいのですか?」
デンデ「はい」
デンデ「ぼくは、679さんが普段どんなことをしているのか興味があります」
679「…把握しました」
デンデ「679さんの住んでる場所、見てみたいです」
679「把握しました」
279 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 22:59:01.40 ID:gz5G8sDO
「あれぇ?679ぅ?」
いきなり、背後から来たのは女性の声
679さんが、ぴくりと反応した…気がしました
679「…」
染色体XX(以下、XX)「なにしてるのぉ?679」
679「…XX、もう俺に関わらないでと言っただろ」
急に、679さんの言葉遣いが変わる
それは、いままでの余分を省いたような言葉ではなく
普通の人間の男の人となんら変わりない言葉遣い
XXと呼ばれた女性は、ニヤニヤと妙な笑顔を浮かべたまま679さんに擦りつくような、媚びた声で言葉を続けました
XX「えぇ〜?『わかった』なんて言った記憶ないしぃ〜」
679「…」
XX「あんたみたいな唐変木で種無しの男、相手にしてあげるのはあたしぐらいなものよぉ?」
デンデ「種無し…」
意味はよくわからないけど、679さんが罵倒されていることはなんとなくわかりました
284 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 23:27:49.13 ID:gz5G8sDO
XX「なによぉ〜、顔色の悪いガキなんか連れてwwwwww」
679「…顔色の悪い…ガキ?」
XX「あ、なに?まさか女の子に相手にされないからって、そーゆー道に行っちゃうの?wwwwwwやぁだぁwwwwヘ・ン・タ・イ」
真っ赤な口紅で彩られた女の唇から紡がれるのは、どれもこれも悪口ばかり
ぼくの手を握ったままの679さんの手が、すこし震えた気がしました
それがなぜなのか、ぼくにはわかるわけもありません
679「XX、消えてくれないか?」
XX「はぁ?マジで意味わかんないんですけどぉーwwwwww」
679「消えてくれ、今すぐ、俺の前から、神様の前から!!」
ぼくはそのとき、声を荒げた679さんを、初めて見しました
その顔は、ロボット故の無表情のままでしたが
たしかにその声には『怒り』とも『苛立ち』とも言えない感情が詰まっている事がぼくにはわかりました
通行人が、怪しむような目つきでぼくらをみていました
けど、679さんは、そのことに気づいてさえいない様子でした
XX「神様とかwwwwww679、何言ってんの?」
679「とにかく、今すぐ消えてくれ」
XX「……」
XX「…っ、フン、わかったわよ」
285 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 23:40:24.00 ID:gz5G8sDO
不機嫌そうな足取りで、長い髪を揺らし、激しくハイヒールを鳴らしてたちさるその人の後ろ姿を眺める679さんは
すごく疲れた顔をしていたように見えました
679「…申し訳ありません、神様」
デンデ「いえいえ…あの人は?」
679「昔は恋人という存在でした……しかし今は私を必要としなくなったはずの、染色体XXです」
デンデ「…」
あの人は、ぼくの知らない679さんを知っているんだ
当たり前のことなのに、そう思うと胸が痛みました
苦しいような、重いような、妙な痛み
それは、ずきん、ずきん、と何度も
デンデ「…」
679「申し訳、ありません」
デンデ「なぜ、彼女とぼく相手では言葉遣いさえ変わるんですか?」
679「…XXは、私がロボットだとは知りません」
デンデ「…」
679「いえ、XXだけではありません。人を目指して作られ私は、日常生活では人のフリをしています」
デンデ「…」
679「私が人に作られし物であることを知っているのは、神様とミスター・ポポと、開発者と私だけです」
デンデ「だから、ぼくたちに演技をしているんですか?」
286 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/23(月) 23:52:14.02 ID:gz5G8sDO
ぼくは、自分の言葉に棘が生えていると、感じました
棘の生えた言葉は、679さんの胸にどう届いているのでしょうか
発した側のぼくがこんなに痛いんです
679さんも、きっと痛いでしょう
しかし、679さんは普段通りの落ち着いた様子で屈み、ぼくと視線を合わせました
679「…神様、それは違います」
デンデ「…?」
679「神様やミスターポポは、私が無理に『俺』を演じることなく接することが可能な数少ない方々です。」
679「XXや身の回りの人に見せている『俺』が偽りの私なんです、私は私です」
デンデ「本当、ですか?」
679「ロボットは嘘をつきません」
287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/24(火) 00:06:52.84 ID:bS31OwDO
679「帰りましょう」
デンデ「でも…」
ひょい、と、再度ぼくは679さんに抱きかかえられてしまう
抵抗の余地もないほど、軽々と
679「雨が…ふります」
抱きかかえられた胸の中から見上げる空には、鉛色の雲が立ちこめていました
さっきまで、あんなに天気が良かったのに
デンデ「…」
679「神様…」
ぽつり、ぽつりと、空から雨が落ちてきて
灰色のコンクリートに黒い染みを作ってゆく
それはまるで、今のぼくのこころのようでした
ぼくは神です
人を憎んではいけません
なのに、ぼくは、あの女の人を…
一瞬でも、憎いと…
思い出したくもないのに、頭の中にあの女の人の言葉がループする
『種無し』『唐変木』『ヘンタイ』…
その度、ぼくの心は清くはいられなくなる
雨に濡らされたコンクリートのように、ぽつぽつと黒い感情が沸き上がる…
679「帰りましょう、神様」
人気のいなくなった路地に、雨がコンクリートを叩く音だけが響いて、679さんの声さえもかき消して
288 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/24(火) 00:13:09.33 ID:bS31OwDO
見上げた679さんは、泣いていました
いいえ、涙を流してはいないのでしょう
雨粒がその頬を伝い、流れ落ちているだけ
679「帰りましょう、神様」
デンデ「…」
デンデ「…もう少し、このまま…」
目の奥が、じんっと熱くなります
鼻の奥がツンとして、涙腺が壊れたように涙があふれ出しました
なぜぼくは泣いているのでしょうか
なぜ涙が止まらないのでしょうか
なぜ679さんは泣いているのでしょうか
つづく・・・。
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