神様の、のようです

109 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:11:58.08 ID:fAYkpso0
初めて>>679さんに会ったのは、
いつも通り青く澄んだ空がどこまでも広く晴れ渡った日でした。
>>679さんはロボットでした。
ヒトを目指して作られた>>679さんは、自分がヒトの心を持ってていたと思っていました。
けれどそうではありませんでした。
ヒトではない、機械の>>679さんは、
とても沢山考えてもカガクテキにはヒトの心を得られていなかったのだと気付きました。
それでもヒトの心が欲しいと願い、
願いが神様であるぼくならば叶えられると信じて、ぼくの元へやってきました。
それから、

「……」


今日は、少し遅いです。


               〜神様の、のようです〜


110 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:17:03.55 ID:fAYkpso0



「ふう」

ポポさんが用意してくれた椅子に座って、少しだけ休息します。
世界を見て、知って。
この星の事を書類にまとめて
ぼくよりもずっとえらい方々に報告するのがぼくの仕事ですが、
この星を見て知るために神眼を使い続けるのは疲れてしまうからです。

目を閉じると、
全く知らない場所へ全く知らない人に、叶えてもらえるとも分からない願いを抱いて
ここへ辿りついたヒトならざる不思議な方の姿が脳裏に浮かんできます。
>>679さんはヒトの心を与えられないぼくに、毎日のように、いえ、毎日会いに来ます。
それはもう日常の一部になってしまうほど。




>>679「ヒトは何かをする時、無駄な動作を伴います」
デンデ「へえ、それはどういうことですか?」


111 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:17:37.88 ID:fAYkpso0
>>679「例えば機械」
>>679「人型の機械が視覚で把握できない場所にあるものを認識したい場合」
>>679「目を動かす事で可能ならば目のみを」
>>679「頭を動かす事で可能ならば首のみを」
>>679「体を全て動かす事で可能ならば足を」
>>679「それぞれの可能域に従って移動させ、認識を実現します」


112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:19:28.07 ID:fAYkpso0
>>679「私が機械として神様を認識したい場合は」
>>679「このようになります」
デンデ「わあ、すごい」

デンデ「これは?」
>>679「このように」

デンデ「じゃあ…」


デンデ「こっちは?」
>>679「このようになります」


113 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:22:41.59 ID:fAYkpso0
デンデ「それじゃ、ポポさんは?」
>>679「はい」


>>679「……」
デンデ「うふふ」

ポポ「こっち」

>>679「はい。このように」
デンデ「うふふ、分かりました」



>>679「そしてヒトが視覚で把握できない場所にあるものを認識したい場合」

>>679「現在地から神様を認識する時はこのように」
>>679「非合理的な動作が付加されます」
デンデ「うわあ、すごいですね。」

デンデ「本当にヒトみたいです」


115 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:27:13.26 ID:fAYkpso0
>>679「……」
>>679「私はヒトを目指して創造されました」
>>679「会話を可能とするために多岐に渡る言葉がインプットされ、また予測機能を利用」
>>679「何らかの仕草には複雑な動作を付加」
>>679「電気信号と科学的反応での計算によりヒトの心を再現」
>>679「私はヒトであったつもりでした」

>>679「先程神様が述べられた言葉通り」
>>679「私は『本当にヒトみたい』な存在であり」
>>679「ヒトを目指して作られた私はしかしロボット」
>>679「ヒトになる事は叶いません」


>>679「神様」
>>679「それでも私が、」

>>679「ロボットである私がヒトの心を欲しいと願う事は」
>>679「正しい事ですか、それとも」


>>679「間違っていますか」


118 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 15:49:19.30 ID:fAYkpso0
「神様」

目をつぶっていた時の幻に重なって、
現実が耳に届きました。

デンデ「うーん……」

背もたれから体を起こし、軽く伸びをすると、
隣にいつも通りの丸い目とにこりと笑みの口をしたポポさんが立っています。
けれども気付けば何の気配もさせず白いタイルの上に佇んでいるはずの、
>>679さんはいませんでした。

ポポ「今日は あいつ こないか?」
デンデ「そうですね…」

空は僅かながら白みを増しています。
きっともうすぐ黄色やオレンジ色の、鮮やかな夕方になるでしょう。


119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 16:13:30.81 ID:fAYkpso0
半円形の浮翌遊する神殿は、暮らしていくには狭いけれど、
ぼくには広く感じます。
それはナメック星で生活していた時に感じたものとは違う広さです。
ポポさんがいなければ、ここはきっと寂しい場所なんだろうなと思います。

ただ、ぼくは個の意識が弱い種族に生まれていますから、
その寂しさを自分に置き換えて思い浮かべる事はできません。

言いかえれば、
ぼくたちナメック星人は自分である事の執着心が薄い、という事なのでしょうか。

ぼくは、ぼくにできることなら何でもしたいと思います。
それで誰かが、みんなが幸せになれるのなら、ぼくはとても満足です。
それはぼく自身のためじゃなくて、
ぼくが誰かや何かを求めるためじゃなくて、
本当に、ただ、望みを叶えてあげたいと思うからです。

だからこそ、願いをぼくに伝えるためにここまで来た>>679さんの
ヒトの心が欲しいという、小さな、でも特別な思いを叶えられなかった事が悲しくて、
ぼくは泣いたんだろうと思いました。


123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 16:52:13.45 ID:fAYkpso0
何の役にも立てないぼくは、
>>679さんの電気信号に快の情報を流させます。

>>679さんにはインプットされたモラルとロボット工学三原則というものがあるそうです。
それに逆らわないという条件で、>>679さんは自分の欲しいものを手に入れ、
やりたい事ができるのです。

ぼくに会いに来る事はモラルに反する事じゃありません。
ぼくとお話しをする事はロボット工学三原則に反する事じゃありません。
ぼくの求めに応えて、以前はキスを教えてくれました。

ぼくと会話をする事が楽しいから、>>679さんはここへくるようになりました。
きっと、ヒトの心を得る事が叶わないと知った>>679さんは、
得られないものを欲し続ける事よりも、ぼくといる一時を選んだのでしょう。

それは嬉しいと思う反面、ちょっとだけ“遣る瀬無い”気分になってしまうものでした。


124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 16:58:42.96 ID:fAYkpso0
会いに来る事は>>679さんの望みです。
ぼくはそれを叶えてあげる事ができていると思います。

でも、本来の願いを叶えてあげる事はできません。

それに、ぼくとお話しをするのは、ぼくとキスをしたのは、
果たして>>679さんが望んだ事だったのでしょうか?


そして、

>>679さんが来ないという事は、
ぼくといる一時すら、ぼくに望まなくなった、のでしょう、か?



もうすぐ>>679さんはインプットされたモラルに従って、
>>679さんのデータの中にある……>>679さんの考える常識から外れた、
非常識な時間になってしまいます。


125 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 17:16:10.18 ID:fAYkpso0
ヒトを目指して設計されたとはいっても、>>679さんはひとではありません。
ロボットですから、常にヒトの求める事を成し遂げようとします。

ぼくとお話をしている時、もしぼくがどこか他に気持ちを向けたら、
地上の人々の様子が気になったりしたら、
>>679さんは口を閉じてぼくがしたい事をできるように促すのです。
それは気遣いでも、要求でもなく、
ロボットとして設計された>>679さんの、ロボットとしての行為です。

>>679さんはロボットとしての立場を超えてまで、ぼくや他人と付き合う事ができません。

だから、せめて本当の願いを叶えられないぼくの、
もっと>>679さんのために何かができないかと思う気持ちも、

……“ぼく”の気持ちも、どうしようもなくて、悲しくて悔しくて、
個の意識が弱いはずのぼくは、遣る瀬無くなるのです。


126 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 17:34:33.22 ID:fAYkpso0
「神様 ハンカチ」
ポポさんが差し出してくれたハンカチを受け取って、
ぼくはまだ>>679さんの事を考えていました。

こんな時、>>679さんはうつくしい花を摘んでこようとして、
やっぱりぼくはそれを止めて、
軋む機械の、普通のひとなら聞こえないほど小さな音がする>>679さんに、
心を持たない、自分を持たない>>679さんに、
ぼくの、誰かの願いを叶えるためにある>>679さんに、
もう少しだけそばにいてくださいと神様らしくない我侭をいうのでしょう。

もしここに>>679さんがいれば。


127 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/06/18(水) 17:36:51.41 ID:fAYkpso0
まだ夕方にはなりません。
まだ非常識な時間にはなっていません。

もし、このまま>>679さんが来なければ、
ぼくとポポさんの、ぼくとポポさんだけの日常が、
>>679さんが来る前と同じに、また始まるだけです。

花瓶に飾った花束はもう枯れてしまったけれど。
>>679さんが幸せである事を、祈らずにはいられません。

ここへ来ない。もうぼくを必要とはしなくなったのでしょう。
それでいいのです。
ぼくにできる事はなにもありませんから。


ぼくは祈らずにはいられません。

どうか幸せでありますように。
どうか幸せでいられますように。


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