「何を、っすか……」
頼りない背中を撫でた。広く逞しいのに力弱い背中を撫でて、
大きな体を抱き締めて、溢れ出る涙を唇で拭う。
切れ切れに、搾り出すように紡がれる声音を聞き逃さないように
俺は息すらも潜めて。
806 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 03:20:46.02 ID:TDVTN3Qo
ピッコロ「……オレ、は、……最低だ、すま…ん」
俺「…………」
ピッコロ「……お前に見限られるのも仕方はない」
俺「……全部ほんとうのことっすか?」
ピッコロ「………………」
俺「……」
ピッコロ「ああ」
俺「……」
ピッコロ「ゆるし、て、……ほしいと、願うことすらおこがましいことは」
ピッコロ「解って…いる」
ピッコロ「それでも、…ゆるして、ほし…」
ピッコロ「……たの、む」
ピッコロ「おまえ、から」
俺「泣かないで」
ピッコロ「もう、…お前から離れて、オレは……まともではいられな… っ」
俺「……」
ピッコロ「……ゆるし、てくれ」
ピッコロ「……」
ピッコロ「たすけ、…てくれ」
814 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 03:30:31.98 ID:TDVTN3Qo
ゆるして、たすけて、とか細い声で繰り返し呟いては涙を零すピッコロさんを、
抱き締めたまま俺は必死に己を落ち着かせる。
何を、
何を言っているんだこの人は。
「ピッコロさん、もう一度言って」
震えるピッコロさんの大きな肩を抱き締めて、
今にも神経が千切れてしまいそうなほど張り詰めているピッコロさんの顔を覗き込む。
「全部、ほんとうのことだと、誓って」
ピッコロさんの唇が震えて、開いて、牙が白く覗く。
苦しげに息を震わせて、それから誓ってくれた。
815 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 03:31:27.37 ID:TDVTN3Qo
「全て真実だ……、誓う」
「……お前の愛を疑った」
「逃げられるのに、逃げなかった」
「その罪を全部、小さなオレに、背負わせた……」
「それなのに」
「ただただお前から注がれていた愛が枯れることが恐ろしくて」
「オレの存在にお前が傷ついて変わってしまうのを見るのが恐ろしくて」
「逃げた、」
「オレは最低だ、」
「……」
「それなのに」
816 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 03:33:18.81 ID:TDVTN3Qo
「……それなのに」
「……七年、」
「お前の幸せを祈っているつもりで」
「…………ほんとうはずっと願っていた、お前が、」
「お前がまだオレを愛しているようにと……」
「……すまない、」
「こんな…」
「こんなおぞましい心で」
「お前を愛していてすまない……」
821 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 03:41:23.17 ID:TDVTN3Qo
ひう、と聞いている方が切なくなるような息遣いでピッコロさんがしゃくりあげる。
ゆるして、とまた呟く唇の動きがひどく悲しい。
背中を撫でながら、俺は考えていた。
七年。
俺達は随分と長い遠回りをしてしまったのだろうか?
いいや。
そうは思わない。
「ピッコロさん」
「俺はこれ以上、あなたの何を許さないといけないのかが解らない」
ピッコロさんの体がびくんと震える。
その体をしっかりと抱き締めて、離さず、俺はピッコロさんを見つめた。
苦痛なほどに胸が熱い。
824 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 03:52:20.97 ID:TDVTN3Qo
ピッコロさんの体が小刻みに震える。
俺の言葉を悪いほうへ悪いほうへ受け取ろうとしてしまっていることが、
絶望の色を宿し始めた目から解る。
「ピッコロさん、俺は、あなたが大切っすよ」
ピッコロさんの表情は変わらない。枯れることがないのかと不安になるほど涙が溢れる。
「……愛してます」
「愛してる。とっても」
「まず、それだけ解っていて。俺は本当にあなたを愛してる」
ピッコロさんの唇がぎこちなく開いて、零れた声はやはり掠れたものだった。
「それでも……許しては、くれないのか」
七年。
七年ずっと同じ1人だけのことを考えて生きていたから、
俺もあなたも随分怖がりになってしまっていた、きっとただそれだけなんだと思う。
七年。
その空白を越えてやっと再びめぐり合えたその相手に、
再び離れられてしまうのが余りにも恐ろしかった。
829 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:00:24.83 ID:TDVTN3Qo
俺「そうじゃなくて。ピッコロさん、あのね……」
ピッコロ「解っている、解っている、それが当然だ、オレは最低なことをした……」
俺「ピッコロさん、」
ピッコロ「オレが浅はかだった、すまな…すまない、許されるわけが…」
俺「落ち着いて、ピッコロさん、」
ピッコロ「…… っく、すまない、……すまない、オレが甘かったんだ、憎まれていても」
俺「……」
ピッコロ「それでも、それでもオレは……、 っ!」
俺「……」
ピッコロ「…………っ、 ふ」
ピッコロ「 ぁ、 っは、 ぅ」
ピッコロ「……ふ 、」
833 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:09:37.01 ID:TDVTN3Qo
ピッコロ「……、……」
俺「落ち着いた?」
俺「……」
俺「もうなんも許すことなんてないんすよ?」
ピッコロ「……そんなわけが、ない、オレは……」
俺「ピッコロさん、ちょっとぎゅってしてもらっていいっすか」
ピッコロ「!」
俺「……して欲しいんです、今」
ピッコロ「……い、いのか」
俺「うん。」
ピッコロ「……」
俺「……あのね。ピッコロさんはまじめすぎるんだなあ……」
ピッコロ「……」
俺「俺のことそんだけ一所懸命考えてくれたんすよね」
ピッコロ「……」
俺「確かに最初は理不尽に怒ったり、あの人もあなたも責めたりしてたんすけど」
俺「俺も子どもだったから」
ピッコロ「……」
俺「でもね。ピッコロさん、もう俺はなんも怒ったりしてないよ」
俺「あなたが俺の気持ちを疑った、っていうのは悲しいけど」
俺「それは俺も同じだ、責められるなら俺もだ」
ピッコロ「……」
俺「俺はずっと、あなたが、あの人を思っていると思ってた」
俺「七年も。ずうっと」
839 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:16:49.57 ID:TDVTN3Qo
ピッコロ「……!」
俺「この家はあなたを迎える為に用意した家っすけど」
俺「……きっといつか俺の傍に戻ってきてくれるって信じていたけど」
俺「信じたかっただけだ、家を用意して、あなたを思いながら内装を整えて」
俺「……そうして自分に言い聞かせてただけなんすよね」
ピッコロ「オレは、オレはお前が……」
俺「うん。それがほんとうのことなんすよね。」
俺「でも俺は、あなたはあの人を選んだんだと思ってしまっていた」
ピッコロ「オレはお前が……!お前だけが……っ」
俺「うん。」
俺「うん、解ったっす、ようやく」
ピッコロ「好き、だ」
俺「俺も。俺も、大好き」
ピッコロ「好きだ」
俺「うん、俺も。」
842 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:19:52.63 ID:TDVTN3Qo
俺「……ピッコロさんは、あの人のかわりじゃなくて、俺が欲しかったんすよね」
ピッコロ「……」
俺「……」
ピッコロ「……お、お前、だから、」
俺「うん。」
俺「さーせん、わからずやで」
ピッコロ「…………っ」
俺「変に拗ねて、さーせん」
ピッコロ「……」
俺「涙、止まらないっすねピッコロさん」
ピッコロ「……おまえも、泣いている」
俺「え」
俺「うわ。ほんとだ」
ピッコロ「……」
俺「うれし泣きっすよ」
ピッコロ「いまは、……オレ、……も」
俺「うん」
853 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:28:41.92 ID:TDVTN3Qo
ピッコロさんがまだ少し怖がっているようなおずおずとした手付きで、
そっと俺の涙を拭ってくれた。
笑みが自然に漏れる。
窓の外には雲ひとつない朝が訪れつつある。
注ぎ込む陽射しの中で、ピッコロさんもうっすらと幸せそうな笑みを滲ませた。
その頬を辿り落ちる涙を舐め上げて、そのままそっとピッコロさんの体を寝かせる。
「あなたが俺の傍に戻ってきてくれて本当に良かった」
「本当に、愛してる」
囁きながら顔を寄せると、僅かに戸惑うように視線を彷徨わせたあと、ピッコロさんの瞼が落ちる。
吸い寄せられるまま唇を重ね、啄ばみ、
確かに俺だけのあなたを、味わう。
858 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:34:33.78 ID:TDVTN3Qo
「……っ ぁ っ」
俺の肩にしがみついてくるような腕が愛しかった。
人の血とは全く違う味を舌に感じながら、縮こまるピッコロさんの舌をなめ、
解き解して絡め、紫がかっていく肌をじっと見詰めた。
全部、俺のだ。
この人は俺だけ見て俺だけ欲しがっている。
862 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:38:08.84 ID:TDVTN3Qo
ピッコロ「 ぁ は、 く、 っ…ふ」
ピッコロ「 ん、 ん、 っ」
ピッコロ「ふぁ っ」
ピッコロ「 は、……」
俺「……ピッコロさん」
ピッコロ「……い、……ち」
俺「ん?」
ピッコロ「……好き、だ、…」
俺「……うん、解ってる」
ピッコロ「>>1……」
俺「うん、 解ってる」
ピッコロ「……っ、 」
873 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:45:43.07 ID:TDVTN3Qo
俺「……夜まで待てる?」
ピッコロ「…!」
俺「そろそろ、仕事に、」
ピッコロ「……っ」
俺「無理、か」
ピッコロ「まて、る」
ピッコロ「待てる……」
俺「……」
877 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/13(金) 04:49:12.91 ID:TDVTN3Qo
ピッコロ「……っ……」
俺「俺が待てそうにないんだよ」
ピッコロ「!」
俺「休んじまおう」
ピッコロ「いや、お前、そんな、」
俺「……七年仕事一筋だったんだ、」
俺「一日くらい許されるんじゃないっすかね」
ピッコロ「……、」
俺「ピッコロさんが真面目に仕事に行けっていうなら、」
ピッコロ「!」
ピッコロ「……きょ、今日だけ……もう少し……一緒に、いたい、すまな……い」
俺「へへ」
俺「謝るところじゃ、ないっすよ。嬉しい」
ピッコロ「……」
俺「5分だけ待ってて。なんとかする」
ピッコロ「……」
俺「ピッコロさん、耳が、跳ねてる」
ピッコロ「!!」
おしまい。
夜が明けた後:
七年後ピッコロと俺、七年ぶりの晴れ渡った空の朝