『それ』は、待っていた。
作り主が死に、苦楽を共にした兄弟が動かなくなり
世界がどれだけ変わっても
『それ』は、待っていた
何を待っているのかさえ忘れてしまうほど長い時を、ただ待っていた。
人型のロボットが珍しくも何ともなくなったこの荒れた世界で
朽ち果てる時の近い『それ』を気にするものなど誰もいない
昔は光を透かしては赤茶を帯びていた黒髪も、色褪せ
身体の至る場所の擬皮珪素ははげ落ち、くすんだ金属の骨を覗かせて
無様、の一言に尽きるその姿を
ゴミを見るように蔑んだ目で見る者はいても
取り留めて気に留める者は誰一人といない
事実、『それ』はもう、『ロボット』よりも『粗大ゴミ』に近しい存在になり果てていた。
それでも『それ』は待ち続けていた。
幾億の夜が『それ』の上を過ぎ去り
『それ』は自分の呼ばれていた名前さえ忘れ去っても、ただただ何かを待っていた
自分でさえわからない、古めかしいメモリの彼方に忘れた大切な何かを待っていた
「 」
回路の壊れた身体は指先一本たりと、口先1ミリたりと動かない
799 ◆AC57OO8nhs [sage] 2009/09/12(土) 09:36:03.80 ID:cLGsWQDO Be:
残り少ないバッテリーの電気をじりじりと消費しながら、ゴミ貯めのような街のゴミ貯めで薄れゆく意識を維持して
『それ』はまだ待っていた
そしていつしか『それ』の上にも終わりが来た
バッテリー残量は0となり
壊れたシステムでは充電など出来るはずもない
薄れてゆく、最後の意識の中で
『それ』は、忘れ果てていた自分の名を呼ぶ神を見た
壊れた『それ』の身体を抱き上げる神を見た
それは『それ』の夢だったのかもしれない、幻覚だったのかもしれない
しかし、『それ』は満足だった
永い命の終わりに
何を待っていたのかを思いだし、自分の名も思い出した『それ』は、もう『それ』では無かった
『彼』は最後まで待っていた
最後に『彼』に手を差し伸べたのは
『彼』の待っていた存在に、きっと他ならない
永い命を終えた『彼』は、また、遠い世界で
鮮やかな緑の優しい笑顔を待ち続ける
『679』は、そこで目を覚ました
800 ◆AC57OO8nhs [sage] 2009/09/12(土) 09:37:44.12 ID:cLGsWQDO Be:
残暑と初寒の混ざる秋空の下、隣には『それ』が最後まで待っていた愛しい人がにこりと幼く優しく笑っていた
「よく眠ってましたね?」
どちらが夢なのか、現なのか679にはわからなかったが
二つ、確かなことがあるとすれば
それは、今、『それ』が待ち続けた愛しい人が目の前にいて笑んでいるということと
『679』にも『それ』にも、これだけで十分だということ
おしまい。