ロボとデンデの出会い

871 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:15:35.59 ID:YIcuRZYo
このごろは、ナメック星にはない夜も愛しいものだと感じることが出来るようになりました。
ぼくもすっかり地球に慣れました。
ナメック星のことを懐かしく思い出すことはあるけれど、
ぼくたちは地球のひとびとやサイヤ人の方々とくらべれば、
個の意識が余り強く出ないので、こうして1人遠い星で暮らしていても
同胞達が健やかに暮らしているだろうと思えば寂しくはありません。




ピッコロさんは少し特殊ななりたちで生まれた方ですから、
ぼくよりは少し我が強いようですが
それでもナメック星人らしい性質は持っています。
そんなピッコロさんがひとと交わり、悲喜こもごもを織り成しながら
毎日色んな感情を発散して暮らしているさまを眺めるのが最近のぼくの楽しみでした。

楽しそうだとは思います。想像もつかないのですが、きっととても幸せなのでしょう。
先ほども言いましたが、ぼくたちは個の意識の弱い種族です。
地上の人々を見守るかたわら、
ピッコロさんが幸せそうに暮らしている様子を眺めているぼくは、
それで充分満足していました。


887 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:25:44.57 ID:YIcuRZYo
そんなある日のことです。
いつも通りピッコロさんの暮らしぶりを眺めて、
ピッコロさんの伴侶の方がお仕事に出かけられてから
ぼくは執務室に戻ってお仕事に取り掛かりました。

地上を見守るだけではなく、界王さまやその上の方に
ぼくが見守る地球がどうなっているのか、どう発展しているのかを
報告しなければいけないのです。

報告書を書いていればポポさんがいつも良いタイミングでお水を持って来てくれるのですが、
今日に限ってはなかなか現れません。
どうしたのかな、と思っているところに丁度ドアが開きました。

「神様」

ポポさんです。いつも通りの丸い目を見返して首を傾けました。
お水を持って来てくれた訳ではないようです。

「お客様」

ふしぎでした。悟飯さんやピッコロさんの気は感じませんでしたし、
天界に訪れるひとたちは大体決まっていましたから。
それでもポポさんが取り次いだということは、会うべき相手なのでしょう。
ぼくは羽ペンを置いて席を立ちました。


892 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:33:07.42 ID:YIcuRZYo
雲の上にある天界から望む上空はいつも抜けるような青空です。
そんな青空を背負って、そのひとは、まっすぐに立っていました。
背骨に鋼が入っているのではないかしらと思うような、
そうですね、まるで軍人のような。

「あなたは?」

ポポさんは黙って傍に控えています。
顔を合わせても何も言おうとしない突然の来客へ、
控えめに声をかけました。
そのひとはまっすぐぼくを見て、そして跪きました。

「No>>679-TypeL.O.S.Aが私の正式名称です」
「……ひとではないのですね?」

そのひとは気配というものが全くありません。
跪いて、伏し目がちにぼくの足元あたりを見つめているそのひとは、
人間にしか見えませんでしたが。

「>>679と呼ばれていました。はい、私はヒトではありません。」


901 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:40:09.15 ID:YIcuRZYo
デンデ「ぼくに、何のごようですか?」
>>679「私はとても沢山考えました」
デンデ「……?」
>>679「その結果」
>>679「どのように乱数を活用し、どのようなファジーな処理能力を手に入れたとしても」
>>679「科学では私が望むべき答えに到底辿りつけそうもありません」
デンデ「はあ……」
>>679「申し訳ありません。端的に言います。私は心が欲しいのです」
デンデ「心が?」
>>679「心を持っていると私は理解していましたが違ったのです」


909 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:44:15.98 ID:YIcuRZYo
デンデ「ううん……」
>>679「私はロボット」
デンデ「はい」
>>679「ヒトの心は電気信号と科学的反応で計算しうるものだと」
>>679「私を設計した科学者は考えました」
デンデ「……」
>>679「私も同意していました。ですがそれは間違いだったのです」
デンデ「そうですね」
>>679「厳密に言えば間違いではないかと疑いを持つようになったのです」
デンデ「ぼくもそう思いますよ。心や感情はそんなものじゃないと」
>>679「神様」
デンデ「はい」
>>679「私は心が欲しいのです。ヒトの心が欲しいのです」


919 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:53:51.56 ID:YIcuRZYo
デンデ「こころ、ですか……」
>>679「私はヒトを愛しました。染色体XX。女性です」
デンデ「ひとを愛せるということは、あなたに心はちゃんとあるのでは?」
>>679「はい。私もそう思っていました。ですがそれは間違いでした」
デンデ「……?」
>>679「私が愛だと認識した電気信号」
>>679「愛ではありませんでした。電気信号です」
>>679「心はそういったものではない。これが今現在の私の結論です」
>>679「ならば私は」
>>679「愛ではなかったのならば一体何に傷ついたのか」
>>679「いえ、正確ではありませんでした。申し訳ない」
>>679「傷ついたと感じた私の心に心がないのであれば」
>>679「私は傷つくはずもないはずです。」
デンデ「……」
>>679「私は心が欲しい。そうすれば全てが解るはずなのです」
デンデ「あなたは、自分を手に入れたいのですね」


924 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 20:58:31.63 ID:YIcuRZYo
>>679「はい。私は心が欲しい。それは私が私であることの証明ともなり得ます」
デンデ「……」
>>679「それは科学では創造することが出来ない概念です」
デンデ「……」
>>679「神様」
デンデ「はい」
>>679「神ならば可能ではないかという仮説のもと、私はここまで来たのです」
デンデ「……ごめんなさい」


934 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 21:07:29.00 ID:YIcuRZYo
跪いたそのひと、……>>679さんは本当にぴくりともしませんでした。
微動だにせず、瞬きすらせず、表情一つ変えずに唇だけ動かして語るその姿は
確かにひとならざる何かであるような、ふしぎな存在感を持っていました。

「ごめんなさい」

あなたの願いを、かなえてあげたい。
ぼくに出来ることなら迷わず「こころ」というものをあなたに作って差し上げるのに。

「ぼくにはできないんです」
「代償に何か必要なのであれば私のプログラム内で可能なものであれば」
「ちがうんです」

「できないんです」

「神なんて、無力なんです。ただ見ていることしか出来ない」


939 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 21:15:46.69 ID:YIcuRZYo
ゆっくりと>>679さんが顔を上げました。
見た目はほんとうにひとに見えるけれど、ぼくの耳には
>>679さんが身動きをする時に、ほんの僅かな機械音が聞こえました。
普通の人間には聞こえない程度のものでしょう。

「ごめんなさい……」

>>679さんは、暫くの間黙ってぼくを見ていましたが、
きびきびとした身のこなしで立ち上がると
ひとつ会釈を残して、飛び立って行ってしまいました。
あっという間に雲の合間に消えていく>>679さんを見送って、
ぼくは自分の無力さにたまらない気持ちになってしまいます。

「神様 ハンカチ」

ポポさんが差し出してくれたハンカチを受け取って、
零れてしまった涙を拭いました。

そもそも、ぼくにもしそんな力があったとしても、
>>679さんの望むこころを作ってあげられるとは限りません。
ぼくは、ナメック星人。
ひとの愛を、理解は出来ていませんから。


943 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 21:25:20.49 ID:YIcuRZYo
「仕事に戻りますね」

ハンカチを借りたまま、神殿の中へ戻ろうとぼくは踵を返しました。

「神様」
「大丈夫です、ありがとう」

ポポさんが掛けてくれる声。それはいつもと変わらないけれど、
心配してくれているのだろうな、と思って落ち着いた声を返しました。

「神様、」
「大丈夫ですって」
「ちがう。 神様」

ふいに耳に届いた機械音。
願いをかなえてあげられないぼくに見切りをつけて立ち去ったはずの、


952 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 21:36:15.71 ID:YIcuRZYo
振り向いたぼくの視界には、一面の花。
花の向こうには無表情のままの>>679さんが
ひとの瞳に良く似た形のレンズを通してぼくを見ていました。

「うつくしいヒトの涙はうつくしい花で拭うものだと」
「私は愛したつもりだった染色体XXから教わりました」
「間違っていますか。」

「……ぼくはうつくしくはないですよ」

驚いてしまって、それだけ言うのがやっとでした。
>>679さんは花束をぼくに差し出したままぴたりと動きを止めています。

「それに、あなたの願いをかなえてあげられる力もない。」
「そんなぼくを気遣ってくれるなんて、やさしいひとですね」


958 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 21:44:22.32 ID:YIcuRZYo

ぼくなんかよりずっと、ひとらしいひとだと思いました。
差し出されたままの花束を、ぼくが受け取らなければずっとこのひとは
同じ姿勢のままでいるんじゃないかと思って、漸く受け取ります。

「NO、どちらとも言えない、そして二度目のNOです。」
「?」

花束なんて貰うのは初めてでした。
きれいな色合いに泣くのも忘れてそれを抱き締めます。


960 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 21:48:56.37 ID:YIcuRZYo

「気遣ったわけではありません。あなたが泣いている様子を知覚すると」
「ヒトの心を目指して設計された私のプログラムに」
「快とは言えぬ電気信号が流れます。」

ぼくはなんと言えばいいのか解らなくて、花束を抱いたまま
じっと>>679さんを見返しました。
>>679さんのレンズにはぼくがどんな風に映っているのでしょうか。
やがて、>>679さんが再び僅かに腰を折ってきれいな会釈をして見せました。

「あ、」

別れの言葉を言う間もなく、>>679さんは再び白いタイルを軽く蹴って
いってしまいました。

花束を抱えたまま、ぼくは見送ります。
追うわけにはいきません、理由も、ありませんから。

花束を花瓶に飾り、執務室の机に飾りました。
きっともう>>679さんが天界に訪れることはないのでしょう。
ぼくには>>679さんにしてあげられることがなにもありません。

でも、せめてこの花が枯れるまで、>>679さんのために祈りましょう。

                          つづく?



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