壊れた古い時計台

691 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 01:45:08.20 ID:I05z0MDO Be:
ちょっと書き掛けの別の話投下する
人形師関係なー

〜〜〜

その町の中心部には
小さな広場がありました。
小さな噴水や、少し塗装の剥げたベンチ
そしてその広場の真ん中には、こぢんまりとした古い時計台がありました。

小さな時計台の大きな時計は、きっかり一時間ごとににぎやかなオルゴールを鳴らし
文字盤に出てきた人形たちかくるくると踊る
それはそれは、小さな子供から年輩のおばあちゃんにまで
とても愛されている、大きな古い仕掛け時計でした。

何十年も前から
雨の日でも、風の日でも、もちろん心地よい晴れの日も
時計はきっかり時間を街人たちに知らせるのです。


けれども、そんなある日のことでした。

その日はなぜか、長針が真上を示しても
オルゴールの音や、くるくる踊る人形の姿が、正時を知らせることはありませんでした。

時計はただ、ちくちくと時を刻むだけ。
長い針が何度真上にたどり着いても
オルゴールもなりません、人形も出てきません。

それからというもの
来る日も来る日も、人形が姿を現すことも
透き通ったオルゴールの音色が響くこともありませんでした。


692 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 01:53:28.17 ID:I05z0MDO Be:
そんな様子が二日、三日と続き
ついに寂しさに耐えかねた町長は、街一番の時計技師に修理を頼みました。
変わり者ではあるものの、腕は確かな時計技師

住み慣れた街の見慣れた時計の仕掛けが動かないのは、時計技師にだって寂しいものです
あたりまえのように時計技師は二つ返事で依頼を受けることにしました。


〜翌日

月に一度、ネジを巻きに人が立ち入るだけの少しほこりっぽい時計台の中を技師は訪れました
しかし技師は埃っぽいことなど気にもせず、大時計の裏に回り
修理に取りかかります。

時計職人の見習い弟子はその近くで何度もくしゃみをしていました。

「っくしゅん、セルさん、どうですか?直りそうですか?」

「…そうだねぇ、これは…」

「くしゅんっ、くしゅっん」

「ホコリがつらいなら先に帰っていいんだよ、531…ん?」


埃を立てないように弟子を気遣いながら外した大時計の裏蓋の中
時計職人は、オルゴールの鳴らないわけも、人形が姿を現さないわけも見つけだしました。

しかしそれは

「これは…やっかいだねぇ」

「へぶしっ、へちっ、くちゅんっ」

「…」

「へーちょ、へくちっ、くしゅんっ!」

693 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 01:57:03.47 ID:I05z0MDO Be:

場所は変わって職人街。

古ぼけたアトリエの中、人形師は壊れたアンティークドールの修理に追われていました。
手元をランプに照らし、壊れたドールを修理する
そんな人形師を、隣に腰掛けてじっと見つめる小さな神様。

それが、このアトリエでは毎日の光景になっていました。

ろくな会話はないものの、人形師も、デンデも、現状にそれなりは満足しています。

さて、人形師が一息つこうかと作業台を立ったのとほぼ時同じくして
アトリエの古ぼけた戸をノックする音がしました。

こんこん、ごんこん、と

「はい」

人形師が面倒くさそうに返事をし、戸を開けると
そこには緑と黒の見慣れた美無性が、弟子のくしゃみを背中ににんまりと立っているではありませんか。

「人形師。すこし助けて貰えないかね?」

「…」

「そうイヤな反応をするな、先日ネジを巻いてやったじゃないか。」

「用件は…」

「そうかそうか引き受けてくれるか、助かる」

人形師の言葉などろくに聞かない内に、ずいと差し出された時計職人の大きな手の中には
どこかで見覚えのある小さな人形

「…これは?」

694 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 02:00:06.03 ID:I05z0MDO Be:


「君もこの街の住人なら見覚えがあるだろう?」

それは間違うはずもなく
広場の時計台の仕掛け時計の仕掛け人形で
当たり前のように、人形師も何度も見たことのある小さな女の子人形でした。

「最近あの時計が壊れたことを知っているかね?」

「いえ、最近は忙しかったのでここに引きこもってました」

「…」

時計職人は人形師を吸収してやろうかと思いました。
しかし、鉄と粘土の固まりを吸収してもなんにもならないのでやめました。

「…まぁいい、仕掛けのオルゴールが鳴らなくなって人形が出てこなくなったのさ」

「はぁ」

「それの理由が、これだったわけだよ」

「…」

よく見ると、時計職人の手のひらの上のその人形は脚が折れ
金色のおさげ髪もくちゃくちゃに乱れて
長い時間の流れを感じずにはいられないほどにくたびれていました。

「その折れた脚が人形の出口に引っかかり、髪がオルゴールのドラムに絡まっていてね」

「…」

「外すのに一苦労したぞ…
他の仕掛け人形も痛んでいたようだったが、特に仕掛けに問題を起こす痛み方をしていたのはそれだけだ」

695 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 02:02:11.45 ID:I05z0MDO Be:
時計職人のなにか含みのある口振りに、人形師は一つため息をつき
壊れた小さな人形を受け取りました。

壊れ痛んだ人形なんて、同じ人形として人形師はほおっておけないのです。

「じゃあ、任せたよ」

「依頼として、お受けしました」

「ははは、修理代の請求書は町長宛に頼むよ」


そんなやりとりを眺めながら
デンデには、経年を感じずにはいられない小さな人形が
人形師の手のひらの上で助けを求めているように見えてたまりませんでした。
日夜助けを求めてデンデの元を訪れる、傷ついた人々のように


その夜

町外れの社の中
デンデはベッドの中で、ただぼんやりと天井を見上げ
眠れずにいました。

なぜなのか
人形師と、あの仕掛け人形が気になって、眠れる気がしませんでした。
瞼を閉ざしても、浮かぶのはそのことばかり

いてもたってもいられず、デンデはこっそりと社を抜け出し
職人街の外れ、あの古ぼけたアトリエへと足を走らせました。


696 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 02:04:18.98 ID:I05z0MDO Be:

あたりは暗く、月明かりだけが街を照らす幻惑的な風景にも
空を割るように流れた一筋の流れ星にも
もの寂しげに響く梟のさえずりにも
気を取られることさえなく、幼い脚で人形師のアトリエへと
ただひたすらに走ったのです。

アトリエに着いた頃、時刻はどれほどだったでしょうか
月は空高くから街を見下ろすように照らし、人の起きてる気配も薄い

それは人形師のアトリエも同じで
不用心にも鍵の掛けられていないドアの向こうは、窓から差し込む月明かりだけしか光は無く
当然、人の気配なんてみじんもありませんでした。
時計が時を刻む音しかない闇の中で
人形師が動く度かすかに響くキリキリという歯車の音も
なぁんにもしない

「679…さん?」

人形師は眠らない
正確には『眠れない』
オートマタである彼には睡眠などない、たまにねじ巻きが切れて動かない状態になるぐらいで

すわ、またねじ巻きが切れて動けなくなっているのではないかとデンデはあわててアトリエの中を探すが
人形師の姿はどこにもない


697 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/06/05(金) 02:06:56.90 ID:I05z0MDO Be:

いったいどこに…

不意に目に留まった作業台、デンデには軽い違和感があった

普段ならば、よくまぁそんな作業台で作業ができるものだと言いたくなるほどに散らかった作業台が
今は妙に片づいていた

正確に言うなら片づいているわけではなく、ただごっそりと何かが無いだけのようであったが

「…?、まさか」

デンデの胸をよぎる一つの予感
デンデは気がつけば、また小さな脚を急がせるように走り出していた

向かう先は街の広場

そして小さな時計台


続く・・・。
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