前スレ:
むかし、の、こと641 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/05/07(木) 01:01:06.68 ID:wJUq/IDO Be:
神様は何かを隠している
私にはあの笑顔の裏に、何かが隠れているように思えて仕方がなかった
もしかしたら、またお一人で大きな苦しみを背負おうとしているのか
それとも、そう大それたことではなく些細な事なのか
否、些細な事ならば隠す意味はない
たとえ誰にとって些細なことであっても、神様にとっては大切なことなのだろう
しかし問題はなにを隠しているのかであって、更にはそれにより神様がまた苦しんでいるのではないかというのがなによりの問題だ
だが、それは私には解らない
となると
まずはそれを知ることが大切だ
「ミスターポポ」
「なんだ?」
神様と寝食を共にするミスターポポならば知っているかも知れない
もし知らなければ…
…
…その時はその時だ
「昨日かそれくらいから神様の様子がおかしいのですが、何か御存じないですか?」
「さぁ?おかしいか?」
「…何というか、何か悩んでいるような深く思っているような」
「わからない」
「…そうですか」
642 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/05/07(木) 01:05:23.59 ID:wJUq/IDO Be:
その時はその時…
まさにその時になってしまったわけですが
神様に聞いても一度ごまかされているのだから今更素直に言って下さるわけがなく
ミスターポポ以外に知っていそうな方などいない…
もしかしたら神様と仲の良い悟飯さんやクリリンさんなら知っているかも知れないが
特に前者にはあまり頼りたくないし
後者は後者であの嫁がなんか苦手だ。美人だがあまり関わりたくない
となると
道はほぼ閉ざされてしまった…
「はぁ…」
「おまえ ひっしだな」
「…神様が一人で苦しんでいるかも知れぬ状況で必死にならねばそれは私ではありませんよ」
「そんなにか」
「愛する人ですから」
さぁ道は閉ざされた
どうするか…
「むかし おまえみたいなやつ いたぞ」
「はい?」
ミスターポポの不意の言葉に、私は思わず耳を疑った。
私のようなやつ?
…何の話だ
機械って事だろうか
「かみさまに すきすきーって ことあるごとに 来てた」
「…」
「たしか… 683とかいった」
何とも言い難い、不快の電波をブレインが受信する
…683
告げられた見も知らぬ男の名前が、ブレイン中をくるくると駆け巡る
神様は…
…好きだったのだろうか
651 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/05/10(日) 00:12:39.86 ID:yLjS86DO Be:
………
……
「神様」
がたんと、ドアが開く音がして
679さんが入ってきた。
気配がなくても、顔を上げなくても、最近は679さんのことはだいたいの場の雰囲気でわかる。
「どうしたんですかー、679さ…」
「…、過去に、683という男性がいたそうですね」
「!」
いきなりの予想だにしていなかった言葉に、思わず胸が跳ねた
まるでどきんどきんと胸が暴れるようで
机から顔を上げて見上げると
ドア枠に寄りかかるように立つ679さんの姿は、どこか妙な気迫さえあり
蛇のような鋭い眼は、まるでぼくを射るようで
その気迫に押されてか、鼓動はより早鐘を打ち始め、背筋をじとりと汗が伝った
別に後ろめたい話があるわけでもないのに。
「…、」
「彼を好きだった?」
「え、っと、…」
「私は答えが知りたい。答えて神様。」
「…ぼくは、」
その問いに答えようとして、言葉に詰まった
好きだった、のだろうか。
ぼくは、彼を、683さんを好きだった?
いいえ
あのころのぼくにはまだ好きとか嫌いとか、そんな感情はまだ理解できなかった
けれども
きっと嫌いじゃなかった。
652 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/05/10(日) 00:19:43.15 ID:yLjS86DO Be:
いいえ
自分に対し、あんなにも好意を持ってくれてた人を嫌いなわけがない
好きだといってもらえるのは、とても嬉しく喜ばしいことです。
「…好きか嫌いかと言えば、きっと好きだったと思います。」
好きだった?
「いいえ、きっと好きです。たぶんまだ過去形じゃなくて」
まだ、過去の話にするには近すぎて
きっとまだ好きは過去形にはなってない。
「…そうですか」
ふ、と679さんの空気が変わったように感じた。
さっきまでの威圧というか気迫は失せ
あんなに蛇のように鋭く感じた視線も、鋭さは消えて
「679…さん?」
「…何か?」
「あの、683さんが…どうかしたんですか?」
「…」
679さんはただ黙っていた
しばしの沈黙の後、ただ一言『申し訳ありませんでした。帰ります』と言い残し
彼はぱたんと音を残して、ふらふらとドアの向こうへ消えてしまった。
653 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/05/10(日) 00:39:29.57 ID:yLjS86DO Be:
………
神様は683とやらをまだ好きらしい
考えれば考えるほど不快電流がブレインにみしみしと積もってゆく
もちろん、機械がそんなことを感じるのはおこがましいとは私自身だってわかっている
わかってはいるつもりだ。
だがしかしそう思うなというのも無理がある
そしてどうかしたかと聞かれても、それを答えられるわけがない
「…『嫉妬してます』なんて、そんなの言えるわけがない」
機械として、人として、男として
言えるわけがない
見上げる空はどこまでも広く
見たこともないその男のことを思うと
ただただ、やり場のない感情電流が溢れ
私のブレインを満たしていた。
続く。