617 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/04/29(水) 00:42:04.88 ID:m4jnDMDO Be:
柔らかい春の日差し
心地よい風が天界を抜けていく
「おはようございます。神様」
「おはようございます。679さん」
いつも通り、なにも変わらない心地よい挨拶
それは、心のどこかでずっといつまでも続くと信じている
途絶えることを疑いさえしない日常
679さんの手を借り、雨の降らない天界の植物達への水やり
なにせ天界は広いから
ポポさんがいるとはいえ、植物への水やりは骨が折れます。
一人より二人、二人より三人とはよく言ったものだと思う
水やりが終わる頃には
幹の太い木も、愛らしい蕾を見せる花も、鮮やかな緑がまぶしい草も
葉に付いた露に真上に近い場所から照射される日差しを映し、きらきらと輝いていた
「ふぅ、水まきはおしまいですね。」
「そうですね」
「じゃあぼく、お仕事してきます」
「はい、ご苦労様です」
「ふふふっ」
618 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/04/29(水) 00:44:22.53 ID:m4jnDMDO Be:
ぱたん、とドアが鳴り
閉じた
執務室にこもり、世界を見ながら様々なことを記して行く
争い、和平、貧困、富裕、嫌悪、愛
今日も世界は様々な存在に満たされています
皆幸せとは言えませんけど、昨日よりも少しだけ幸せが増えているような気がすると
何とも言えない嬉しさがわいてきます。
そのまま毎日幸せが少しずつ増えていって、いつか世界が幸せに満たされるのではないかと
空想したくなるのです。
皆幸せに
世界が愛であふれたらいいのに、と
「…愛、か」
自分で発した『愛』なんて言葉に
ふぅっと胸を横切っていった、切なさにも似た懐かしいような感情。
619 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/04/29(水) 00:46:24.93 ID:m4jnDMDO Be:
ずっと昔…なんて言えるほど昔じゃないですけど
679さんが天界を初めて訪れた日より結構前
ある男の人が天界を訪れました。
かなりの月日が建ったけど、今でも忘れはしません
彼は693と名乗った。
愛想の良い、表情のころころ変わる青年で
まだ今みたいに地球人のような感情をあまり学んでいなかったぼくにもわかるほど
彼はぼくに好意を寄せてくれていた。
事ある毎に、好きと愛を囁いてくれて
ぎゅうと抱きしめてくれた。
それは暖かくて
地球に旅立つ日に、ナメック星のみんなと
『元気でね』と、交わした抱擁を思い出して
とても心地よかった事を覚えている。
ころころと変わる表情は見ていて飽きず
人間にはこんなにも表情があるのかと驚いたものです
表情豊かでボディーランゲージが大袈裟でにこにこしてて、気持ちに嘘がなくて
どんなときでも素直なことが言える。
彼はある意味で679さんとは対極な人だった。
679さんはああ見えて結構ひねくれ者だから…
620 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/04/29(水) 00:48:41.53 ID:m4jnDMDO Be:
でも
彼はある日を境に、天界へ会いに来てくれることは無くなった。
ある日、とは
今でも覚えている。
あれは夏の始まり
679さんが初めて天界に訪れて、花束が枯れて
ちょうど、その頃
初めて会った679さんに心痛めて
あの花束が枯れて、寂しく悲しく思いながら枯れた花束を木の下に埋める
彼はどこか複雑な面もちで、そんなぼくを見ていた。
そして
その日から、彼が天界を訪れなくなった。
寂しくなかった、といえばきっと嘘になる。
でもぼくは、当時寂しいなんて感情を理解していなかったから
きっとそれは愛しい人に捨てられ自分を持て余す人を、哀れに思う感情の一部なんだと思っていた。
でも
人の感情を少しは理解した今ならわかる
きっとあれは、寂しく恋しく思う気持ちだったのだと。
「神様」
「ん?」
物思いの中、不意に呼ばれ顔を上げると
そこには無表情なひねくれ者が心配そうにたたずんでいた。
「今日はずいぶんと仕事長引いてますね。」
「そうですか?」
窓から差し込む日差しはは、気が付けばもう夕日から夕闇へと近づきつつあった。
続く。