その先客はそう広くはない玄関の冷たいあがりかまちにちょこんと座り
さも嬉しそうに目を細め、デンデと一緒に帰ってきたその部屋の主に一声『にゃあ』と鳴いた。
「…」
「どうかしましたか?神様」
「…いえ」
にゃあと鳴く、この部屋と同じ色をした長い毛足のその先客からは
およそ気配が感じられない。
虫でも、鳥でも、どんなに小さくても生物は皆持っている生きる物の気配が
全く無い。
それはまるで、今デンデの隣にいるこの部屋の主と同じ
「研究所の試作機ですよ。しばらくモニターとして預けられたんです」
「あぁ…それで」
それで気配がないのか
679の話に納得し、デンデはそのけむくじゃらな先客に手を伸ばし、小さな頭を撫でた
小さな頭から伝わる温もりは、まさに生きているそれと何ら変わりないといっても過言じゃないほどで
ぐるぐると心地よさげに喉を鳴らしている。
「本物みたいですねー」
「そうですか?研究員に伝えておきます」
「えへへ…本物の猫とふれあったことは無いんですけどね」
591 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/04/23(木) 00:56:27.18 ID:hbVMW6DO Be:
そんな679とデンデの何気ない会話をそれはまるで理解しているかのように
ぐるぐると喉を鳴らしながら
ぴんと背を伸ばし、すました顔で耳を立てて聞いている
そして679が部屋に上がると、それを追うようにとととと軽い足音をたてながら部屋に入っていった。
小さな先客は、ぼくよりもずっとこの部屋になれているらしい
デンデはなんとも悔しいような複雑な気持ちを軽く振り切り
679とそれの後に続いて部屋に上がった
「名前とか、無いんですか?」
「Type-P.C.L.proto」
「…」
ベッドに上着を放りながら興味なさそうに返事を返す679に
デンデは思わずため息をついた
悪意も他意もないのだろうが、679の興味対象外への対応はたまにひどすぎる。
まだそんなに長い付き合いというわけではないが、デンデは679との付き合いの中からそれを知っていた
知ってはいたが…
「名前ぐらいつけてあげたらいいじゃないですか」
「何故?」
「なんでって…名前もないなんてかわいそうじゃないですか」
「ですから、名前はType-P.C.L.proto」
「…それは名前じゃなくて開発名称じゃないですか?」
「はて?」
592 ◆AC57OO8nhs [sage] Date:2009/04/23(木) 00:57:59.39 ID:hbVMW6DO Be:
違いを理解していないのか理解する気がないのか、首を傾ぐ679にデンデはもうため息もでなかった
そんな二人をよそに、当の本人…いや本機はベッドに放られた上着を前足で必死に揉んでいるのだが
「…」
デンデは名前についてはあきらめ、一つため息をつくと
ベッドの端に腰掛け、傍の上着の上で丸くなったそれの柔らかい毛並みを楽しむように、小さな身体を優しく撫でた。
一つ大きなあくびをし、また喉をぐるぐると鳴らすそれは
たぶん自分の名前など気にしてさえいない。
「…」
「…」
特に会話はなくて
殺風景な部屋にはぐるぐるとそれの喉の音だけがしていた。
つづくかも。