「……なんで、泣いてるんすか」
すまない、すまない、オレにはそんな資格なんてないのに。
お前を傷つけて裏切ってお前から逃げたオレに、
泣く権利なんてないのに。
「ピッコロさん」
「さわ る な」
お前に慰めてもらう資格なんてないんだ、
解っているんだ、
それなのに涙を止めることが出来ない。
飛び立つことも出来ない、
オレは、浅ましい。汚い。
529 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:15:03.02 ID:YIcuRZYo
「……さーせん」
ちがう、
違うんだ、
嫌なんじゃない……嫌なんじゃない……
本当はもっと触れて欲しい、
みっともなく流れ出る涙をぬぐって欲しい、
触って欲しいんだ、本当は、ほんとうは、
ああオレは、みっともない。情けない。
ピッコロの
A・素直スイッチ
B・男前スイッチ
C・へたれスイッチ
D・鬼畜スイッチ
>>適度に背中を押してあげて!
540 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:19:08.54 ID:YIcuRZYo
>>529
A--------
B--
C--
D
素直に。
548 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:22:51.36 ID:YIcuRZYo
「……あの、コレ、使って」
オレの頬に差し伸ばされた手は、一度拒絶の言葉を向ければ二度とは寄せられなかった。
それが果てしなく悲しかった。
だがもうその手は、オレのものじゃない。あの女のものなんだ。
「ピッコロさん」
差し出された、きちんと折られたハンカチを見下ろす。
また涙が盛り上がって溢れていく。あの女が畳んだものなのだろうか。
それでも、
お前が差し出してくれた優しさだ。
「何があったんすか?」
オレが憎いだろうに。心配そうに見上げてくる視線が居た堪れなかった。
いや、
もう、憎いとすら思われていないのだろうか。
今なら、オレは、あの男の気持ちがわかるような気がする。
無関心でいられるくらいなら、恨みでもいい、
オレに何らかの想いを向けていて欲しい……。
受け取ったハンカチが、かろやかに、重かった。
553 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:29:40.51 ID:YIcuRZYo
好きだ。
好きだった。
今でも愛している。
お前を目の前にして、オレはもうガマンなんて出来そうにもなかった。
「ピッコロさん?……あの」
「ひさし、ぶりだ、な」
声が情けない程に震える。
しゃべろうとしては胸から空気の塊が押しあがってくるようで、ひく、と息が詰まり、苦しい。
「ああ…、そうっすね」
「…おまえ、は」
「今、幸せ、か?」
気持ちが、こんなにも肉体的に苦痛を与えてくるものだなんてオレは
お前を愛するまで知らなかった。
胸が、痛い。
形容ではなく、本当に耐えがたく胸が痛む。
>>1が、笑った。
554 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:31:06.13 ID:YIcuRZYo
「そうっすね。」
幸せそうな笑いだった。その口を塞いでしまいたかった。
もうそれ以上何も言わせないでおけたらどんなにラクか。
「幸せっす」
こんなにも胸が痛いのに、死ねないのが不思議だとすら思った。
手の中でハンカチがぐしゃりと潰れる。
561 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:35:04.85 ID:YIcuRZYo
言葉を継ごうとして、口が、喘ぐ。
それでもオレは。
告げたい。
全ての望みが無かろうとも、期待してはいけない思いだということは解っていた。
それでもお前に言いたかった。
七年前、この勇気があれば、
今でもお前の傍に、オレは、いられたのだろうか。
今更思っても詮無いことだ。
「オレは」
「オレは、お前のことが」
565 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:40:16.79 ID:YIcuRZYo
お前の目が、オレを見ている。
お前の耳が、オレの声を聞いている。
ただそれだけのことがどんなに嬉しいことか、
七年前の自分に教えてやりたかった。
「お前のことが、……」
「好きだ」
「今でも」
「愛している」
もうお前はオレには触れてはくれないのだろう。
今一度お前のぬくもりを感じたかった。
倒れこむように、肩に手を掛けた。オレを見詰める目が見開かれている。
スーツの厚い肩の下に、お前の体が確かにあることが、
掌から伝わってくる。
耐え難かった。
おずおずと、…………>>1の頬を片手で包んだ。
>>1がそこにいる。
570 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:44:18.46 ID:YIcuRZYo
涙がただただ邪魔だった。止めたいのに止められない。
お前をもっときちんと見ていたいのに、
涙が視界を歪ませる。
お前をもっと感じたくて、ほんとうに、真剣に、頬を撫でた。
その手を振り払わないでいてくれることが有難かった。
一度離れてしまえば、
もう、お前に触れる勇気は持てない。
「愛して、いる」
「ずっとだ……」
「お前が……、これからも……」
「しあわせ、に」
喋れなくなった。みっともなく喉がひくつき、声がひっくり返る。
お前がこれからも幸せに暮らせるよう、祈っている。
そんなことは嘘だ。オレは、オレは、お前に、
574 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:50:09.86 ID:YIcuRZYo
「あいし、 て、いる」
言葉がうまく口から出ない。
お前に、言いたいことがある。
願ってはいけない願いがある。
祈ってはいけない希望がある。
期待してはいけない、解っている、それでもお前に望みたい。
「………ッ………」
あいしてくれ。
もういちど、あいしてくれ。
お前に言いたい、聞いて欲しい、なのに言葉が、ひどく痛む胸でつかえて出て来ない。
あいしている。あいしてほしい。おねがいだから。
584 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 05:56:34.56 ID:YIcuRZYo
歪んだ視界に、お前が見つからない。
何度も瞬きをして涙を振るい落とすのに、壊れちまったみたいに涙が止まらない。
だが、お前が動こうとしていることが、肩と頬に触れた手から伝わる。
「あ、 あいし、」
もう言葉にならない。
しゃっくりのようなみっともない声。こんな声じゃお前に伝わらない。
どうしても聞いて欲しいんだ、
まだ、
帰らないでくれ、
オレはもう今を逃しては勇気なんて持てそうもない。
いそぐから、
いそいで言葉にするから、
もう少し待ってくれ、
588 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:03:41.41 ID:YIcuRZYo
「 っ 」
息が出来ない。
お前の手に触れられた後頭部が恥ずかしいほど汗ばんでいて、
そんなところを触れられることが申し訳なかった、
それから、どうしてそんなところに触れられているかに考えが及んで、
「 ぁふ、 く……ふ、 」
だがそれについて考える前に、理解する前に、思考が弾け飛んだ。
ガクガクと膝が震え、折れて、ああいやだ、立っていなければ失ってしまうと
恐怖にまた涙が零れたが、
地面に膝を着いてしまった後もそれは消えずにオレに与えられたままだった。
息が出来ない。
このまま死んでしまいたい。
591 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:08:37.90 ID:YIcuRZYo
息が出来ない。
押し付けられた薄っぺらい、だが熱いそれの感触を、
オレが間違う訳がない。
押し込まれたやわらかで少しざらりとしたそれの感触を、
オレが忘れられる訳がない。
どうしてだ?
どうしてだ?お前は、もうオレなんて愛していない。
愛していないんだろう?
それなのにどうして、
どうして、してくれるんだ?
解らない、それでもいい、ずっとそうしていてほしい。
598 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:17:57.86 ID:YIcuRZYo
「……っ 、 ぁ は、」
許されるだろうか。
お前に縋ることを、お前は許してくれるだろうか。
だが耐えられなかった。首に腕を廻す。
オレや、オレの見知った男達のそれと比べて
お前の首は、なんて頼りないんだろうか。
それでもオレはお前のここに縋っていないと、壊れてしまいそうだった。
「 ふ 、……い、……っぁ 」
お前の名前が呼びたかった。呼びたくて、だが舌がお前に奪われる。
しがみついた。
耐えられない。好きだ。もっとしてほしい、だがもう止めてくれ。
期待してしまう。
お前が少しでもまだオレのことを惜しく思ってくれているなら
オレは、それだけでお前にすべてを投げ出せる。
602 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:25:34.74 ID:YIcuRZYo
「ぁ……、 ふ、 いやだ……」
永遠に続いて欲しいと、そのまま死にたいとすら思った口付けは、
オレの息の根が止まる前に離れてしまった。
熱くなった唇が夜気に冷えて、心まで冷えてしまったようだ。
悲しかった。寂しかった。
体が震えてしまいそうになる。落ち着け。
落ち着かなければ。
「ピッコロさん」
整えようとした息が、声を聞いただけであえなく乱れてしまう。
落ち着け。
オレは、どうすべきだ。どうすればいいのか、考えろ。
「俺も愛してる」
ああ、また思考の手綱がオレの手から逃げていく。
解らない、どうしてだ、そんなはずがない、だが、
「愛してる」
どれだけ焦がれたか解らない腕がオレを抱き締めた。
もう、いい。
騙されていてもいい。そうしていて欲しい。
610 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:33:43.93 ID:YIcuRZYo
「……っ、……」
名前が呼びたかった。声にならない。
オレを抱き締める腕が外れてしまわないように、
体を押し付けるようにしがみついた。
「ピッコロさん」
「帰りましょう」
ビク、と体が震える。
いやだ。いやだ。ずっとこうしてお前と、
こうして、
こうしていたい。
毒を含んでいようとも、この幸せに浸っていたい。
「俺の帰りが遅いから、きっと心配してる……」
ああやはりオレは先ほどの口付けの時に死んでしまえば良かった。
621 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:42:53.81 ID:YIcuRZYo
動き出そうとする、…>>1を、きつく抱き締めて離さなかった。
苦しいっすよ、とオレを窘めるように掌が背中を撫でてくれた。
もっと。もっとそうして欲しい。
もう、もう少しでいい。
まだ帰らないで、欲しい。つらいんだ。
「ピッコロさん……」
「俺たちの家に、帰るっすよ?」
声が優しかった。
オレを愛してくれていたときのように。
「ちがう、」
「何が?」
「もう、オレの、いえじゃな…いだろう」
>>1の顔を見ることができなかった。
肩口に顔を埋める。
頼りないけれど、オレは、好きだ。
625 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:46:13.51 ID:YIcuRZYo
「何言ってるんすか」
掌も優しかった。オレの背中を何度も撫でてくれるそれが心地よかった。
愛されているような気すらしてしまう。期待してはいけないのに。
「だって俺の家っすよ」
「……おまえと、お前の相手の家だろう」
「え?……うん、そうっすね」
涙が止まらない。オレは本当に弱くなってしまった。
>>1の肩口を汚してしまう、そう思っても離れることが出来ない。
オレはあの時ひどく残酷なことをしてしまったんだな。
オレが口付けの瞬間に死にたいと思ったように
あの男もあの時死にたかったに違いない。
今ならその気持ちが良く解る。
630 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:50:44.89 ID:YIcuRZYo
「だから、俺とピッコロさんの家でしょ?」
「…………」
よく、解らなかった。
ただ、止まりそうにもなかった涙が勢いを緩める。
>>1の手はずっと、優しかった。
オレの背中を撫でていてくれる。
「だ、が」
「だが、だがお前は……」
「俺の相手はピッコロさんっしょ?」
「……っ」
顔を上げた。
まだぼやけた視界の中で、公園のライトの灯りの下、
>>1がオレを見ている。
>>1がオレを見て微笑んでいる。
「ピッコロさん、愛してるっすよ」
解らない。そんなはずがない。だが信じてしまいたい。
634 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 06:57:32.39 ID:YIcuRZYo
「……泣き虫っすね、ピッコロさん」
見詰めていればまた涙が零れてしまった。
>>1が笑って、そっと拭ってくれる。
それが嬉しくて、幸せで、目を閉じるとまた溢れて。
それを、唇に吸い取られた。
幸せだった。
「ピッコロさん」
「七年間、ずっとあなたのことだけ考えてた」
嘘だ、嘘だ、だが、
だが、信じてしまいたい。
好きだ。愛している。愛されたい。
636 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 07:03:43.04 ID:YIcuRZYo
新月の空はただ星だけが眩く輝いていた。
その中を、>>1を抱きかかえるようにして横切る。
あっちです、と>>1が指し示すままに。
ほどなく辿り付いた、少し街中からは外れた一戸建ての前に、
促されるまま降り立った。
>>1がオレの腕から地面に降り立つ。それだけで寂しいとすら。
「ここ」
「ピッコロさんと俺んち。」
「前の家ほど便利なとこじゃねーけどピッコロさんは大丈夫っしょ?」
「ここが……お前の、家なのか?」
>>1がオレを見上げて呆れたように笑った。
「ピッコロさんと、俺の家だってば」
641 : ◆hAmnyPalgs[sage]:2008/06/08(日) 07:07:53.80 ID:YIcuRZYo
「日当たり、良いんすよ」
手馴れた手付きで門を通り、鍵を開ける>>1の後姿に
誘われるように近づいていく。
荒れているというほどでもないが手入れされていない庭に、
別に見たいわけでもないが目を向けた。
>>1を見ていればしがみついてしまいそうだからだ。
「わははっ、ごめんなー遅くなって」
ドアを開けると待ち構えていたように>>1に飛び掛って来た大型犬に、
驚いて視線を戻す。
楽しげに犬をあやし、玄関に入った>>1がオレを振り向いた。
「ピッコロさん、おかえり」
>>1の足元に纏わりつく大型犬と、>>1を見比べて、
また少しだけ泣いた。
「ただい……、ま」
泣き虫だな、と、叱ってくれ。
Happy End?
ちょっとだけ続きます。
次スレ:
7年越しの再会 その後